「長い夜もありました」と語る谷亮子さん。オリンピック金メダル2度、世界柔道選手権で7度優勝してきましたが、10代から注目され続ける中で何を思っていたのか。(全5回中の5回)

戦術は大会ごとに200通りも

谷亮子
試合当日は搾りたてのフレッシュジュースを飲みました

── 今まで数々の大会で優勝や金メダルを獲得されてきました。世界中から谷さんに注目が集まり、各選手が谷さんの技を研究されているなか、試合とどのように毎回向き合ってきましたか?

 

谷さん:おっしゃる通り、大会で使った技は次までに研究され尽くします。前回の技を同じ状態まで仕上げても全然通用しないんです。だから毎回、新しい技を取り入れて大会に望みました。この展開になったら内股からかけるとか。背負い投げにするとか。組み手もいろいろあるので、すべての組み手を組み合わせるとひとつの大会で毎回、新しい戦術を200通りくらい用意していたと思います。

 

── 毎回新たに200通りとは、かなりすごそうです!

 

谷さん:私のひとつの強みは戦い方をいくつも持っていたこと。それが世界の舞台で長く立ち続けることができた理由だと思っています。たしかに大変と言えば大変でしたが、次から次へアイデアが浮かんでくるので、新しい技を作っていくのは新鮮だったんですよ。この技がかかるんだ、これ効くんだ!って練習中に実感できると、より成長を感じられましたし。

 

── しかし、試合中はものすごい緊迫感かつ、かなりのスピードで戦っているかと思います。200通りのうちどの戦術を使うか、すぐに判断できるのでしょうか?

 

谷さん:全日本の監督、コーチとは、試合のときと、年4回実施する強化合宿でしかお会いしないので、基本的には自分が所属するトヨタ自動車で戦術などを練習することになります。そこで、20名からなるチームYAWARAを結成し、私自身が練習メニューを考案し、実践してきました。試合中はチームYAWARAのメンバーが応援席から戦術のアドバイスを送っていました。ちなみに初めてお話ししますが、柔道の技の名前や組み手は世界共通。背負い投げは「seoi-nage」です。なので、試合中は、背負い投げは10番「10番〜!」と数字を盛り込んで言ってもっていました。 

 

── あの大歓声の中で、かつゾーン(極限の集中状態)に入っているなかで、「10番」とかハッキリ聞こえるのでしょうか?

 

谷さん:ゾーンに入ってますけどその声は聞こえるんですよね。それを組み込んで日頃から練習しているので、開始線に戻っているときにアドバイスを聞きながら次に備える感じですね。しかもいいタイミングで言ってくれるので、試合中はグッと集中していても声は耳に入ってきます。

 

── ちなみに、数々の大会で素晴らしい結果を残されていますが、今まで眠れない夜はありましたか?

 

谷さん:ありました!オリンピックの前日はほとんど寝てないです。夜は選手村で横になって目を閉じていますが、やっぱり起きてますね。明日の試合のことしか考えないんですけど、夜が長いんですよ。「今晩寝たら体重が300グラムくらい落ちるかな。これはちょうど軽量ぴったりだな」って思いながら寝ようとはしてるんですけど。

 

── 5回オリンピックに出場したなかで、一番眠れなかったのはどのオリンピックですか?

 

谷さん:シドニーオリンピック(2000年)の「最高で金、最低でも金」と言ったときですね。あのときは、夜が長くて眠れなかったです。

 

── では、いちばん眠れたのは?

 

谷さん:結婚して子どもが生まれる前、アテネオリンピック(2004年)ですね。自分の本能で技をかけて金メダルを取りましたが、アテネでは試合の前日も、その前から気持ちいいくらい眠れていました。ただ試合の前日や当日だからといって何か特別なことをするわけではなくて、1週間、2週間前も常に今日はオリンピックだという気持ちで過ごしているので、当日もいつも通り試合に臨むようにはしていました。