78歳の父親が毎朝4時起きで仕込みをする姿を見て

── チャーハン作りの修行はいかがでしたか?

 

城咲さん:「親父はすごい」と改めて尊敬しました。うちの親父はもう78歳なんですが、毎朝4時半に起床して、暗いうちから厨房に行き、ひとりで黙々と米をといでチャーシューを煮ています。

 

あるとき、「飲食業で一番大事なことは何かわかるか?」と聞かれたんです。僕は「お客様においしいと言っていただくこと」と答えたんですが、「違う」と。「大事なのは仕込みだ」と言われたんです。

 

「朝起きたら顔を洗って、1日の段取りを考えながら包丁をとぐ。丁寧に食材を切り、丁寧な仕込みができれば、おいしい料理ができる。仕込みのときに適当に具材を切ったり、チャーシューの味つけに妥協したりしていると、どうでもよくなって、鍋を振るのも適当になる。お客様に満足していただける料理は作れないんだ。仕込みでその日の仕事の9割は決まっている」と言われました。

 

それを聞いてハッとしました。それは料理だけでなく、すべての仕事につながる基礎中の基礎だと思ったんです。やっぱりどんなことも、事前準備をしっかりすることが大事です。チャーハン作りに人生をかけてきた人の言葉の重みを感じました。

 

実家の中華料理屋『丸鶴』の味を守るため、26年ぶりに父のもとで修業

親父は一時期、体調を崩して入院していました。病院からは「次に具合が悪くなったら人工呼吸をつけます」と言われるほどだったんですが、そんなときでさえ仕込みには手を抜きませんでした。「命をかけるというのはこういうことだな」と思いました。

いまだからわかる両親の存在と尊敬の念

── とても確固とした信念のあるお父さんですね。

 

城咲さん:本当にその通りです。いつも言われていたのは、「ランチは1000円以内で提供しなさい」ということでした。どういうことかというと、「サラリーマンは1時間の休憩のうち、30分で食事して、コーヒーを飲んでタバコを吸って、休憩して戻りたいんだ。1000円でそれができれば、お客様のランチの時間も充実したものになる」と言うんです。

 

ありがたいことに「丸鶴」は毎日行列ができるほどお客様がいらっしゃいます。母は親父の信念を守るため、限られた予算のなかで、苦労しつつも無料のコーヒーをつけていました。

 

最近は食材費が上がってしまったからコーヒーを無料にするのは難しいのですが、チャーハンの価格は950円で頑張っています。「これだったら1000円でお釣りが来るだろう」と親父は言っています。いつもお客様のことを考え、努力を怠らない姿を見ると、頭が下がります。

 

── 完成した冷凍チャーハンを見て、お父さんは何と言っていましたか?

 

城咲さん:とても嬉しそうでした。でも、照れ隠しなのか「やっぱり俺が作ったものにはかなわねえな」とも言っていました。典型的な昭和人間だから、感情表現が下手なんですよね。

 

冷凍食品でもチャーハンのしっとりとした食感を出すために、父のもとで修業した

僕も長い年月を経て、ようやく素直に「親父はすごいな」と思えるようになりました。大人になってから修行したことで、親父との関係も見直せたし、家族の絆が深まったと思います。妻(2021年に結婚したタレントの加島ちかえさん)が一緒に店を手伝ってくれたから、僕も修行に専念できました。

 

親父とは男同士で似たところが多いから、ぶつかり合うことも多かったです。でも、「城咲仁」という存在の芯の部分を作ってくれたのは親父と母だと思います。信念がしっかりした親父と、それを長年支えてきた母がいてくれたからこそ、いまの僕がいるんだとしみじみと思います。

 

 

PROFILE 城咲 仁さん

しろさき・じん。タレント、実業家。新宿・歌舞伎町のホストクラブで5年間No.1ホストを務める。カリスマホストとして数多くのテレビ番組に出演。ホスト時代から全国にその名を知られ、2005年タレントに転身した。バラエティ番組などで活躍し、テレビ通販では1日2億円売り上げるトップセールスに。21年、タレントの加島ちかえさんと結婚。22年、実家の町中華「丸鶴」の味を伝える、「丸鶴魂」を立ち上げ、冷凍チャーハンの通信販売も行う。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/城咲 仁