愛沢えみりさん
起業してすぐの頃、最初のオフィスでの1枚

── 東京で、まずどんなことから始めたんですか。

 

愛沢さん:都会に行きたいと思っていたので、最初に六本木に行きました。まず働かなきゃと思っていたので、道でたまたま会ったスカウトの方と話して店を決めた感じです。

 

── そこから夜の仕事を始めたんですね。順調でしたか。

 

愛沢さん:いえ、ぜんぜん売れませんでした。毎日ヘルプ(指名されたキャバ嬢が他の客との接客中に会話をしたり、飲み物を作ったりする役割の人)に入るだけの生活でした。当時、東京で出会った彼氏に生活面のサポートをしてもらっていたので、仕事を頑張って自立しようという考えはありませんでした。「結婚すればいいんだ」と思っていたので、時給泥棒だったと思います。ちょっと嫌なことがあったら早退したり、行くと行ったのにやっぱり行かないと言ったり。いきなり辞めて、また店に戻ったこともありました。

 

── いつ頃から仕事のスイッチが入ったのですか。

 

愛沢さん:付き合っていた彼氏と別れたときです。住む家をはじめ、すべてが無くなって初めて「人に頼ると怖い」ということに気づきました。その頃、東京に来て2年経っていたのですが、バッグひとつで家を出て来た時と同じ状況になってしまったなって。そこからもう六本木は嫌だと思って、場所を歌舞伎町に変えました。

 

── なぜ歌舞伎町だったんですか。

 

愛沢さん:歌舞伎町のキャバ嬢という存在は以前から知っていましたし、もしかしたら自分が学生の頃に憧れを抱いていたキラキラしているイメージは歌舞伎町なのかもしれないと思って、20歳の頃に新宿に引っ越しました。

 

── そこから一気に人気になりますね。

 

愛沢さん:いいお店と、いい担当の方に出会えたおかげなのですが、3か月で店のNo.1になれました。お店のロッカーにも張り出されて、1番という数字がすごく嬉しくて。1番っていいな、ずっと1番でいたいなという気持ちがそこで初めて生まれました。歌舞伎町に来た頃はNo.1になりたいという気持ちはまったくなくて。店で1番になったがために、その素晴らしさを知りました。

 

── No.1で居続けるプレッシャーはありませんでしたか。

 

愛沢さん:1番になったのはたまたまだったので、そこからキープをするのはすごく大変でした。最初のお店には1年間お世話になるのですが、1年間ずっとNo.1でいると、もうそれ以外考えられなくなってしまって。1番ではないなら、自分の価値がないという考えになっていたと思います。でもそのあと、歌舞伎町でNo.1になりたいという目標が生まれて、仕事に対する向上心が芽生えました。プレッシャーや自分との戦いはもちろんありましたけど、それも活力になっていたと思います。

 

── 具体的にどんな努力をされていたんですか。

 

愛沢さん:私は、No.1で居続けるために必要なことをノートにたくさん書いていました。例えば、売上ならこのくらい、そのためには1日にこのくらいお客様を呼んで、どんなことをするかというのを逆算して書くんです。お酒が弱く、お酒は飲まないと決めていたので、土日もお客様と1時間おきにお茶をして。自分の見せ方やブランディングというものも考えながら、お客様のために何をすべきかを常に考えていました。ノートに書く習慣は今も続いています。

 

── 現在は起業して経営者としての立場ですが、ビジネスにも繋がるところがありそうですね。

 

愛沢さん:キャバ嬢をしていて良かったと思うことですが、当時は自分を売ることを客観的に見ていたと思います。そのあと、起業して物を売ることにもつながるのですが、状況は刻々と変わっていくので、「今、自分がしなくてはならないこと」を常に一歩引いた目で見ていく作業を繰り返していました。

 

学生の頃の私はまったく勉強をしてこなかったのですが、自分のしたいこととなるとこんなに真剣にノートを書いていたのが面白いですよね。勉強の仕方は色々あると思うのですが、当時の私はどう売上を上げるかがすべてで、思いつくことは全部やろうと思っていました。

 

── ある意味、究極の実践型ですね。

 

愛沢さん:働く人や置かれた環境のなかで、どう自分を自制していくかも学びました。やっぱりお店は繁華街にあるので誘惑は多いですし、遊ぶ場所もたくさんあって、生活も昼夜逆転していたので体にもメンタルにもいい環境とは言えません。

 

志を持って働いている人もいれば、楽そうだからというような理由で働いている子もいますし、お客様も皆さん良い方ばかりではありません。人をどう見極めていくかも身についたと思います。楽な方へ流されていくのは簡単ですが、私は、常に自分がどうありたいかを考えて行動していました。

 

PROFILE 愛沢えみりさん

1988年神奈川県横浜市生まれ。(株)VOYAGE代表取締役。元歌舞伎町No.1キャバ嬢、『小悪魔ageha』専属モデル。インフルエンサー歴13年で総フォロワー数は200万人以上。
 

取材・文/内橋明日香 写真提供/愛沢えみり