人気番組に引っ張りだこのティモンディ前田裕太さん。文武両道としても知られる前田さんは、先輩芸人のお子さんの家庭教師をしていた時期もあったそうです。「特技は勉強」というほど学ぶことが得意な前田さんの素顔に迫ります。

高校時代に成績がすこぶるよかった理由は

── 子どもの頃から頑張って続けてきた野球で、愛媛の名門・済美高校に進学し、卒業後は駒澤大学法学部へ入学されました。野球と勉強の両立は大変だったのではないでしょうか。

 

前田さん:野球部のみんなって、勉強が得意じゃないんですよ。授業も全然聞いてないし(笑)。というのも、毎日朝から晩まで睡眠時間も削って練習ばかりしていたから、授業中しか寝る時間がなかったんです。先生も最初は頑張って起こすんですけど、みんな寝ちゃうんですよ。つらくて、眠くて。

 

僕は成績がすこぶるよかったのですが、授業中に起きていただけです(笑)。まわりが全員寝ていて僕だけが起きているんだから、そりゃあ相対的に成績もよくなるよねっていう話で。

 

ティモンディの前田裕太さん
ゴルフをはじめ趣味も多彩な前田さん

── 前田さんも同じように野球中心の毎日だったと思うのですが、なぜ授業中にひとりだけ起きていられたのですか?

 

前田さん:一時期は僕も寝てました。でもあるとき、途中で起きたら、全員寝ている前で先生が淡々と授業をしていたんです。ひとりで黒板に文字を書きながら授業を進めている先生の姿を見ていたら、すごく申し訳なくなっちゃって。それに「先生ってなんて職人的な仕事なんだろう」と感動したのもあります。

 

それ以来、「頑張って起きていよう」と授業を受けるように。だから成績がよかったんだと思います。ちなみに、高校3年の夏で野球部を引退してからは、みんな死ぬほど眠れるようになったので、全員起きていたんですけどね(笑)。

法学部の勉強は「自分に自信を持たせてくれた」

── 高校卒業後の進学先は、なぜ駒澤大学だったのですか?

 

前田さん:成績がよかったから指定校推薦が取れて、試験もグループディスカッションもない、自分にとって難しくない方法で入れる駒澤大学を選びました。子どもの頃から夢見ていた甲子園がまさかの県大会決勝戦での敗退で行けなくなって、生きる気力もなくした僕だったけれど、たまたま入った法学部が肌に合っていてすごくラッキーでした。

 

── 法学部はどんな面で自分に合っていたと感じたのですか?

 

前田さん:僕は小学生の頃からとにかく野球しかなかったから、大学入学までまったく勉強をしてこなくて。そのなかで唯一、みんなに置いていかれる心配をしなくてすんだのが、法学部だったんです。大学入学と同時に他の人と同じことが一斉に学べる学部だった。だから「野球だけじゃなく、学問でも僕はダメなんだ」と自信をなくさずにすんだのかなと思います。

学費免除でいくつかの大学院に合格

── 大学卒業後は明治大学法科大学院に進学されたそうですね。

 

前田さん:大学1年の夏頃から塾講師のアルバイトも始めたのですが、そういったことも考慮して、ゼミの先生が「大学院の適性検査を受けてみなよ」と勧めてくれたんです。大学でいうセンター試験のようなもので、受けてみたら意外と成績がよくて。何校か「学費免除で」と言ってくださって、その中から明治大学法科大学院を選びました。

 

── それはすごいですね!

 

前田さん:大学時代は、「大学に行ったんだから」と、ひたすら法律の勉強を頑張っていたんです。サークルも勉強好きが集まる法律研究に入って、放課後はみんなで法律について討論したりして。あの頃は、授業をろくに聞かずに楽しそうに笑っている学生があまり好きじゃなかったですね。「勉強以外に何をする場所なんだよ、ここは」と本気で思っていましたから(笑)。

先輩芸人のお子さんに家庭教師を始めたきっかけ

── サンドウィッチマンの富澤たけしさんのお子さんに家庭教師をされていたこともあるそうですね。

 

前田さん:大学時代に始めた塾の先生の仕事を、芸人の仕事でご飯を食べられるようになってからもしばらく続けていたのですが、その頃、サンドウィッチマンさんのライブの前説のお手伝いをする機会があったんです。

 

そのときに、富澤さんから「家庭教師と集団塾の講師、どっちもやってるんだって?大学院にも行ってたらしいね」と声をかけてもらって、「うちの子を一回みてもらってもいい?」と。そうしたらお子さんもけっこう気に入ってくれて、その後、ハライチの澤部佑さんのお子さんの家庭教師もするようになりました。

 

塾の講師として登壇しているティモンディの前田裕太さん(中央)
塾の講師として学生たちに授業を教えていた頃。登壇しているのが前田さん(中央)

── どういった教科を教えていたんですか?

 

前田さん:小学生には全教科、中学生でもだいたい大丈夫ですね。答えがあるものをいかに教えるか、なので。

 

── とはいえ、それぞれの子に合わせて教えるのは難しそうです。

 

前田さん:低学年であればあるほど難しいなと思います。というのも、学問に対する嫌悪感やアレルギーが生まれてしまうと、何をしても苦痛になるから。「悪くないな」「楽しいな」と思ってもらえることが教える人の役目だと思っています。

 

僕が子どもの頃に野球を好きになったのは、コーチに褒めてもらったから、「楽しい」と思えたからで、長く続けられた理由だと思っています。勉強もそうであってほしいと思っていて。だから、「勉強も悪くないな、これだったらやってもいいかな」と思える下地づくりが、点数が取れる、取れないよりも重要。子どもが自分から「学ぼう」と思えるように、学ぶことを好きになってもらうことが少し大変だったかなと思います。

家庭教師の最初の授業は水族館で

── 子どもたちに学びを好きになってもらうために、前田さんはどうされたのですか?

 

前田さん:人って、初めて向かい合うことや人に対しては、よほどのことがない限り好きも嫌いもないと思うんです。だから、対象となるものに付随する何かで興味を持ってもらうことが大事だなと思っていて。

 

富澤さんと澤部さんのお子さんたちの場合、最初は一緒に水族館へ行きました。ペンとノートを持って。「好きなことや気になったこと、興味を持ったことを書いて」「自分の気持ちが動いたものをノートに書いてね」と言って。

 

小学生の頃のティモンディ・前田裕太さん
小学生の頃の前田さん。自身も習い事などで好奇心の芽を育てていた

子どもって、同じ話をしてもメモすることも違うんですよね。僕が「照明がどうしてこうなっているのか、それはお魚が人間の姿を見るとびっくりしちゃうから。お魚からは人間が見えないような反射にしているんだよ」と話すと、そのことを書く子もいれば、逆に魚の習性について書く子もいます。こういうことって、勉強というよりも、学びだなって思うんです。

子どもたちとの時間は学ぶことが多くて楽しい

── 家庭教師は、いつ頃まで続けていたのですか?

 

前田さん:2020年くらいまでです。芸人の仕事が増えてもなんとかやろうと思っていて、澤部さんのお子さんは、1か月か2か月に1回、1時間くらい、昨年も少しみていたかな。僕も子どもたちから学ぶことが多くて楽しいし、先生という職業も「いいなあ」と思っていたので、楽しんでくれる限り、一緒に学ぶ機会があると嬉しいですね。

 

PROFILE 前田裕太さん

1992年、神奈川県出身。高校からの友人、高岸宏行さんとお笑いコンビ・ティモンディを結成。前田さんはツッコミ・ネタ作り担当。「やればできる!」を持ちネタにした漫才で数々のバラエティ番組に出演、また現在、NHK『天才てれびくん』にMCとしてレギュラー出演中。文武両道を活かしたラジオ番組やコラム連載など多方面で活躍。

 

取材・文/高梨真紀 写真提供/前田裕太、グレープカンパニー