9歳の母でもあるヴァイオリニスト宮本笑里さん。結婚直後に腎盂腎炎で入院。娘を出産後はヴァイオリンと子育て、どのように向き合っているのでしょうか(全3回中の3回)。

突然の高熱に見舞われて…

── 2007年にデビューし2012年に結婚、2014年に出産を経験されながらヴァイオリニストとして第一線で活躍し続けています。ヴァイオリンとはどのように向き合っていますか? 

 

宮本さん:以前は一日10時間以上ヴァイオリンの練習をしないと安心できないような時期もありましたが、今は練習時間もきっちり決めすぎないようにし、「これは頑張りすぎかな?」と少しでも思ったら休むことを大切にしています。

 

コンサートが近くなるとどうしても練習量が増えてくるのですが、そういうときは、夫と子どもにちゃんと話をして集中させてもらったり、ご飯も予め作ってストックしておいたり、冷凍食品を投入することも。そんな風に今は気楽にやっています。

 

── 「休むこと」を大切にしようと思ったきっかけはありましたか?

 

宮本さん:きっかけは、結婚後の2012年に急性腎盂腎炎になったことです。当時はヴァイオリンや仕事が忙しかったうえに結婚直後で私生活もかなり張りきっていたので平均睡眠時間が2時間程度と今では考えられないような生活を送っていました。何ひとつ手を抜くことができない性格なので、削るなら睡眠時間だったんですよね。

 

それがある日、風邪だと思って休んでいたら、今まで味わったことのない悪寒におそわれ震えが止まらず立つのもままならない状態に。家族の手を借りて病院へ直行したところ、さまざまな検査を経て急性腎盂腎炎とわかりました。

 

そのまま2週間入院。予定していたコンサートやテレビのお仕事などはすべてキャンセルし、大変なことになった…と日々号泣。このときに初めて、カラダがSOSを出してしまうことがあると知り「休む」ということを学びました。

 

── 娘さん誕生後はいかがでしたか?

 

宮本さん:まず、妊娠中は切迫早産の恐れがあったため約4週間の入院や、退院後も絶対安静が続いていたのでほとんどの時間をベッドの上で過ごしていました。産後は産後でホルモンのバランスなのか分かりませんが、「この子を守れるのは私だけ!」という気持ちがすごく強くなり、とにかく徹底して子どもと向き合っていたんです。

 

母乳をあげるタイミング、ちゃんと息をしているかどうか呼吸を確認するタイミングをきっちり決めて、あと頭の形をきれいにしたいというこだわりがあったので、1時間ごとに左右にコロコロ位置を変えるとか、細かいことを毎日毎日。しかもそれらをすべてメモしていたんですよ。

 

だから、病気になったとき以上に出産前後はヴァイオリンとの向き合い方に悩みました。

 

 ── すごく頑張っていらっしゃったんですね。

 

宮本さん:皆さんの前に戻ったときに「前の方がよかった」と言われるのだけは絶対に嫌だったので、なんとか練習時間を確保したいと思っていましたが、赤ちゃんが起きているときは目が離せないし、寝ているときは起こしたらかわいそうだから音を出して弾けない。毎日ヴァイオリンを持って指だけカタカタ動かすようにしていましたが、この時間はいつまで続くのだろう、また復帰できる日が本当に来るのかな、と暗いトンネルの中にいるようでした。

 

── その状況を変えるきっかけはいつ、どのように掴むことができましたか?

 

宮本さん:1歳になるころ、娘をシッターさんや両親などに預けられるようになってからですね。前々から「親とか周囲に頼った方がいいよ」というアドバイスは友人らからもらっていましたが「人に頼る=自分に負けた」という考えがあり、苦手だったんです。

 

だけど、仕事などの関係でいざ預けてみたら視界が開けたというか「あれっ、私も自分の時間を作っていいんだ」と思えて。しかも娘と少しだけ離れることで、育児の時間もすごく大切だけれど自分だけの時間も大切にしたいと、少しずつ比重を自分にも傾けられるようにしました。