「音楽の世界は甘いものじゃない」と言っていた父が
── 「先生と生徒」という関係性はいつ頃まで続きましたか?
宮本さん:プロとしてデビューした後も「音楽の世界は甘いものじゃない。いつ必要とされなくなるかわからないんだぞ」とはっぱをかけられていたので、父に会うたびに身が引き締まるような感覚はしばらく続いていました。
変化がおとずれたのは、私が娘を出産し孫ができてから。それからは人が変わったように私にも優しくなり、やっと本来の親子関係に戻れたような気がします。
── 宮本さん自身にも気持ちに変化はありましたか?
宮本さん:実は私も一時期、娘にヴァイオリンを教えていたことがあり、父ほどではまったくないのですが段々と熱心になっていく自分に気づいたことが。そのときに父もこんな気持ちで一生懸命私に教えてくれていたのかなと思い、懐かしむというかなんだか切ない気持ちになりましたね。
ちなみに今、娘はヴァイオリンを辞めてチェロを習っています。同い年ぐらいの子がコンクールで素敵にヴァイオリンを弾いている動画を見てショックだったらしく、ヴァイオリンより競争率が低そうなチェロをやりたいと。子どもなりにいろいろ考えるんだなと思いました(笑)。
── 今も娘さんのチェロの練習を見ていますか?
宮本さん:今は完全に先生にお任せしています。逆に以前チェロを習っていたことのある夫が娘を見ています。二人で楽しくやっているみたい。私は見ないようにしていますが、それが一番ですね。音楽になると熱くなる性格はどうやら父と一緒のようなので。
PROFILE 宮本笑里
ヴァイオリニスト。東京都出身。14歳でドイツ学生音楽コンクールデュッセルドルフ第一位入賞。その後は、小澤征爾音楽塾、NHK交響楽団などに参加し、07年「smile」でアルバムデビュー。様々なテレビ番組、CMにも出演するなど幅広く活動中。2022年7月デビュー15周年を迎え、同月には15周年記念アルバム「classique deux」をリリース。
取材・文/平岡真汐 写真提供/宮本笑里