「誰にだって癖はある。私もそうだよね」という境地
── 子育てで大切にしていることは何ですか。
相武さん:挨拶です。うちの子は挨拶が苦手で。でも私もそうだったのでよくわかるのですが、人見知りがベースにあると、人の目を見て挨拶をすることができなくて。
私も実はデビューして20歳くらいまでは事務所の先輩の目を見て挨拶をするのが恥ずかしくて苦手でした。でも、それってすごくもったいなかったですし、失礼なことだったなと思うんです。子どもたちには、「相手の目を見てニコッと笑って、おはようとか、こんにちはっていうとみんながハッピーになるよ」と伝えています。これは自分の反面教師ですね。
── 子育てを通じて変わったと思う価値観はありますか。
相武さん:人を自分の考えで勝手に判断して決めつけなくなりました。子どもだけではなく、大人に対してもそうです。子どもによく言うんですけど、「うちはうち。よそはよそ。うちのルールは他の家では通用しないし、みんなそれぞれ違う考えがある。それに、あなたの考えも、パパやママとも違うことがあるかもしれないから、その時は反論してもいい。その代わり、ちゃんと自分の考えを人に伝えなさいね」って。
子育てをしていると、自分が産んで育てている子どもで、毎日こんなに厳しくしつけているのに、なんて失礼なことをするの!なんて場面がたくさんあります。20歳までは言い続けるつもりですが、どんなに最高の人間を育てようと思ってはいても、なかなか思い通りにはなりません。だんだんと、「これはこの子が持っている個性と性格なんだ」と思って、尊重するようになりました。
外でお行儀が悪いお子さんを見ても「もしかしたら、普段はできるかもしれない」とか、「そうそう、たまにできないときもあるよね」と思えますし、携帯をずっと見ているママがいても「何か朝から嫌なことが続いていたのかな」とか想像できるようになりました。子どもとずっと向き合っていると時に涙することもありますが、「そういうときもあるよね」という気持ちでいられるようになったと思います。
── キャパが増えていっていますね。
相武さん:半ば諦めの気持ちもあるかもしれません(笑)。でも私の性格的にはそれでよかったと思うんです。これまでは結構、型にはめて決めつけてしまうことが多くて、それはそれで楽ではありました。でも、子育てで感じた壁が、子どもたちがどんどん型から外れていく時に、イライラして自分の感情をコントロールできなかったことでした。そんな時も、「誰にだって、癖はある。私もそうだよね」と思うと、自分のことも肯定して認められるようになりました。今では、子育てをするうえで気持ちの持ちようはだいぶ楽になってきたと思います。
PROFILE 相武紗季さん
スカウトをきっかけに芸能界入りし、2003年フジテレビ「WATER BOYS」で俳優デビュー。その後、ドラマや映画、CMなどで活躍。主な出演作に「ブザー・ビート〜崖っぷちのヒーロー〜」、「リッチマン、プアウーマン」、「リバーサルオーケストラ」、「ラストマン -全盲の捜査官-」など。
取材・文/内橋明日香 写真提供/相武紗季