シンガーソングライターのBONNIE PINKさんは44歳で娘を出産しました。父の闘病生活と妊活の時期が重なり「精神的なストレスがあった」と話す当時のエピソードについて伺いました。(全4回中の1回)

スタッフのひとことがきっかけで妊活にフォーカスを

── 妊活と出産、子育てのために活動を休止されていたと伺いました。

 

BONNIE PINKさん:プライベートをないがしろにしていたわけではないんですが、アルバムもコンスタントに出して割とこれまで仕事を熱心にしていたと思うんです。私の場合は若い頃からしたいことがありすぎて、ずっと駆け抜けてきた感じだったのですが、ハッと気づいた時には結構年齢を重ねていて。

 

BONNIE PINKさんと娘
お揃いのぱっつん前髪が可愛い!母の日に娘から贈られた花束と

結婚したのも遅かったですし、年齢的なこともあるので最初は妊活と並行して仕事もしていたんですけど、両方同時にというのはなかなか結実しないんです。職種にもよると思いますが、私のように体を使う仕事だと、それこそ排卵日のタイミングで地方にいることも多く、同時進行するのは難しいという自覚はありました。

 

あるときスタッフから、「妊活にフォーカスして仕事をストップしてもいいよ」と言われたんです。事務所にも子どもが欲しいことは伝えていたのですが、私からは「妊活したいから音楽を止めたい」というのはなかなか勇気のいることで言えなかったんです。

 

無理して仕事も妊活も頑張って、結局どちらも成し遂げずに終わったら一生後悔すると思っていた私の空気感が伝わっていたのかもしれないのですが、スタッフから言ってもらえて救われました。実際に妊活に専念して子どもを授かることができたので、年齢的にはギリギリのタイミングでしたけど、本当によかったと思っています。

 

── 産前産後の休暇は取る方も多いですが、まだまだ妊活中にお休みをいただくことへの抵抗感は強いですよね。

 

BONNIE PINKさん:ミュージシャンとしての自分と、いち女性としての自分。ずっと続いていくのは、いち女性としての人生なんですよね。音楽は止めることはできても、女性としての喜びはそんなに簡単に手に入るものじゃない。でも、もし今、頑張れば授かれるかもしれないというタイミングなら、頑張りどきなのかもしれないと思って決断できました。

父の闘病生活と妊活

── 妊活をしている間、お父さんの容態がよくなかったそうですね。

 

BONNIE PINKさん:父は3年間、癌の闘病生活を送っていたのですが、病気が発覚した時点でかなりショックを受けました。お父さんっ子だったので、なんとか治せないかなといろいろ調べて、入院している病院に通えるように京都に帰って、また東京に戻るという生活を送っていました。もし子どもを授かることができたら父にとって初孫になるので、それが励みになって闘病の苦悩から少しでも解放されたらいいなという願望もあって。

 

妊活しながら父の闘病をサポートしていた時期もあったのですが、無事に子どもを授かって報告した際は、すごく喜んでくれました。安堵もしていたと思います。

 

── 闘病のサポートをしながら妊活をして、その後も妊娠中のご自身の体に向き合うのは大変だったと思います。

 

BONNIE PINKさん:精神的に相当なストレスがあったと思います。ギリギリ出産が間に合ったらいいなと思っていたんですが、娘が生まれる2週間前に父が亡くなってしまって。もう少しで顔を見せてあげられたのにと思うと悔しかったです。

 

直前に父が亡くなって本当に悲しい思いをしましたけど、「私には出産という大きな仕事が残っている」と思うと切り替えられました。これをやり遂げるまではメソメソしていられない。今の自分の状態がすべてお腹の赤ちゃんに伝わってしまうと思ったら、「こんなんじゃいけない」と思って。産むという使命を成し遂げるまでは、悲しみをいったん横に置いて頑張ろうと思いました。

 

BONNIE PINKさんと娘
娘と一緒に行くというライブ会場での1枚

無事に生まれた後にホルモンのバランスもあって号泣しましたけど、父が亡くなってポカンと開いた穴に娘がうまく着地してくれたように思えました。父から娘にバトンタッチしてくれたんだと思うと救われましたし、これが父の狙いだったんじゃないかとすら思いました。

 

父はエイプリルフールに亡くなったんですが、冗談をいうのが好きな父だったので、最大の冗談を最後にぶちかましてくれたなと。父の闘病中、渦中にいる際はしんどかったですし、産前産後の感情の振れ幅はすごかったですけど、後から考えると必然だったのかなと思って納得するようにしました。

 

── 産後はいつ頃からお仕事を再開したのですか。

 

BONNIE PINKさん:今年、アルバムを11年ぶりに出したんですが、アルバム制作と考えると3年前くらいから、娘が3〜4歳になってやっと自分の時間が捻出できるようになってから始めました。産んだ後いつ頃から復活できるかというのも初めての経験で分からなくて。手探りしながらゆっくり復活してきた感じです。

 

曲を作ってリリースし、ライブをするという大きい波を1年くらいかけて追う活動なので、「よし、やるぞ!」と思わないと乗り越えられない仕事です。産後すぐには復帰できませんでした。それに44歳で高齢出産だったこともあり、体がなかなか復活しないんです。

 

帝王切開だったのですが出血多量だったこともあって、産後は貧血が何か月も続き、体をもと通りにすることだけでも大変でした。若いうちに出産して、産後びっくりするくらい早く復帰される方もいますよね。おすすめはできないのですが、可能な方はいると思います。でも私には無理でした。「やりたい!動きたい!」という気持ちはあるんです。でも気力はあっても体が追いつきませんでした。時間がかかってしまったけど仕方ないですね。でも私の場合は逆に若いうちは仕事に専念できていました。

 

── 仕事を再開するにあたって子育てのサポートをしてくださる方はいますか。

 

BONNIE PINKさん:私の母は遠方にいて高齢なので、親に頼るというのは現実的ではありません。かといってシッターさんにお願いするのもあまり気が進まなくて。以前、兄夫婦が東京に住んでいた際にはヘルプに来てもらって、スタッフさんの力も借りて。保育園に通うようになってからは仕事をしやすくなったと思います。

 

今、娘は6歳になりましたが、ツアーに出て何日間も家を開けるとなると、夫の協力も必要になってくるのでそのあたりの課題はまだ残っていますが、うまく調整しながら仕事も進めていけたらと思っています。

 

BONNIE PINKさん

1995年アルバム「BLUE JAM」でデビュー。国内外のミュージシャンと積極的に交流しつつ作品を制作。2006年リリースのシングル「A Perfect Sky」とベスト盤「Every Single Day-Complete BONNIE PINK(1005~2006)-」が大ヒット。その後もオリジナル・アルバムの数多くの楽曲はドラマや映画・CMに起用され、その歌唱力と作詞/作曲センスは幅広い世代から注目を集め続けている。2023年、11年ぶりのアルバム「Infinity」をリリース。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/BONNIE PINK Official