昭和のガーリー文化を独自の目線で発信している「昭和的ガーリー文化研究所」所長・ゆかしなもんさん。SNSや著書で紹介する自信がコレクションしている懐かしのアイテムは同世代なら誰もがその頃の思い出とともに記憶がよみがえるものばかり。ゆかしなもんさんがコレクションを始めたきっかけを伺いました。
「80年代の女の子のカルチャーを発信したい」趣味は使命感へと変化
── コレクションを始めたのはいつ頃ですか?
ゆかしなもんさん:実は本格的に集め始めたのは大人になってからなんです。90年代~2000年代は社会人になりたてで必死でしたし、むしろ長らく80年代のことは忘れていました。とはいえ骨董市とかリサイクル店とかを見るのは好きで。たまたま見つけた漫画雑誌『りぼん』の付録や、子どもの頃欲しかったスパンクのおもちゃに出会って「うわー!欲しい!!」と思ったのがきっかけです。リアルに使わないけど、そばに置いておきたいと思ったんです。
ずっと家に置いていたのですが、どんどん増えていって、今、専用の倉庫を借りてそこに置いています。数えたことはないのですが、トータルでおそらく数千アイテムもあると思います。
── 世間から注目されることになった「昭和的ガーリー文化研究所」のブログを始めたのが2010年とのこと。
ゆかしなもんさん:コレクションを発信しはじめたのはまさにそこからで、買ったものをブログで紹介していました。その頃、ファミコンとか男の子カルチャーを発信する人はたくさんいらっしゃったんですが、女の子のカルチャーを発信する人があまりいなくて。それで、「私が紹介しないといけないんじゃないか?」という使命感を次第に感じはじめるようになったんです。
── フォロワーさんのなかには、ゆかしなもんさんの少女時代に自分の姿を重ねて見ている方が多そうですが、どんな少女時代だったんでしょうか?
ゆかしなもんさん:ファンシーショップに出入りしたり、サンリオショップに行くのが楽しみな女子でしたが、とにかくミーハーで。アイドル雑誌、歌番組をすべて観て、ラジオも録音してチェックするようなアグレッシブな片田舎の小学生でした。当時は名古屋に住んでいて、3歳上の姉がおりまして。妹は姉が好きな文化に手を出してはいけないという暗黙のルールがあったんですよ。
姉は雑誌『なかよし』派、となると私は『りぼん』派、という具合で。これを言うと「うちもそうでした!」という方が意外に多いんですが(笑)。姉の本棚からこっそり借りてきて『なかよし』も読んでいましたし、結果的には2人分の雑誌を網羅できる環境にあり、あらゆる少女文化を吸収していました。
──『なかよし』と『りぼん』はクラスの女子はみんな読んでいましたね。愛用している全プレ(読者全員プレゼント企画)のアイテムで、その子が何派かわかったり。
ゆかしなもんさん:全プレはみんなお揃いのように持っていましたね。応募券と必要額の切手を送ると届くシステムで、『りぼん』なんかは本誌2号分と増刊号1号分で応募できるとか、高度な技が必要な回もあったりしたんですよ。
「やっててよかった!」と心から思った憧れの先生へのインタビュー
── 付録を集めたご著書では、たくさんの付録や全プレのグッズなどもご紹介されていますよね。
ゆかしなもんさん:レターセットや紙袋、トランプなどなど付録のために書き下ろされたイラストは、特別感もあり贅沢でしたよね。掲載にあたり、すべて出版社を通して漫画家の先生方にご許可をいただいたのですが、このような形で憧れだった先生方と繋がれたときは「今までやっててよかった!」と心から思いました。
── 好きがこうじて夢が叶うというのはすごいことですね!
ゆかしなもんさん:『あさりちゃん』の室山まゆみ先生や『ときめきトゥナイト』の池野恋先生にお会いできたり、『パンク・ポンク』のたちいりハルコ先生に書面でインタビューさせていただいたりなど、憧れていた先生方にお話を伺えたということがいまだに信じられません。
── 錚々たる先生たちですね。すごい。あと岡田あーみん先生の付録もご紹介されていましたね。先生との掲載確認のやり取りがあって載っているんだと思うだけで、胸が熱くなりました。
ゆかしなもんさん:現在は表舞台から退いた先生もおられますが、当時の女の子たちのカルチャーを作り上げてきた真髄を知ってらっしゃる方たちですからどうしてもお話を伺わないといけないと思いましたし、付録の掲載ひとつにしても勇気を出してオファーさせていただきました。本にまとめることができて、それを当時の女の子だった皆さんに届けられたというのは、本当にやってきてよかったなと思います。
懐かしさが持つパワーを後世にも残していきたい
── 5月に新刊『ゆかしなもんの'80sガーリーカルチャーガイド』も発売されましたね。80年代のものを書籍にまとめるという点で、ご苦労したことなどありましたか?
ゆかしなもんさん:とにかく、お菓子にしてもファンシーグッズにしても、メーカーさんに当時を知る方がいないということですね。そうなると、事実確認ができないこともあったり。40年のときが流れたことで掲載することの難しさに直面する場面が多かったですが、メーカーさんのご協力のおかげで形になりました。
── 80年代の魅力を書籍として残すことは歴史においても貴重な資料となりますね。
ゆかしなもんさん:そうですね、その使命感を感じて挑み、この本でひと段落できました。皆さん大人となり、今一生懸命に生きていらっしゃるから、少女時代の思い出に浸っていたいなんてそんな悠長なことを言ってられないんですけど。でも、当時のアイテムをふと見たり音楽に触れたときに、一気に「あーーー!」って心が持っていかれる。80年代のカルチャーは心を元気にしてくれるような、そんなパワーがあるなと思っています。
PROFILE ゆかしなもんさん
昭和50年生まれ。2010年にスタートしたブログ「昭和的ガーリー文化研究所」では、所長として70’s、80’sの文房具、おもちゃ、アイドル、漫画などなど、自身が集めたお気に入りのコレクションを中心に紹介し懐古してきた。独自の目線で展開する豊富な知識とコレクションは多くの同世代をはじめ、近年のレトロブームに関心を寄せる若者たちから注目を集めている。現在は、SNSなどを通じて昭和ガーリーカルチャーの魅力を発信しながらイベントの監修を手掛けるなど、さまざまな場面で活躍中。著書に「'80Sガーリーデザインコレクション」、「'80Sガーリー雑誌広告コレクション」、「'80S少女漫画ふろくコレクション」、最新刊「ゆかしなもんの'80sガーリーカルチャーガイド」(すべてグラフィック社)。
取材・文/加藤文惠 画像提供/ゆかしなもん
※すべて著者の私物のスナップ画像です。現在は入手困難です。