17歳でモデルデビューした森貴美子さん。自然体な魅力が人気を集めていますが、仕事を始めたばかりの頃は「コンプレックスの塊だった」と話します。お話を伺いました。(全3回中の1回)

自分らしさに悩んだ日々

── 高校3年生の17歳でモデルデビューしました。オーディションを受けようと思ったのはなぜでしたか。

 

森さん:小さい頃から洋服が好きで、将来は洋服に携わる仕事をしたいと思っていましたが、具体的な職業までは結びついていませんでした。雑誌『non-no』専属モデルのオーディションは友人が写真を撮ってくれて応募しました。ヘアモデルをしていて雑誌に載ったこともあったので、雑誌のお仕事は楽しそうだなという興味はありましたが、まさか自分が選ばれるとは思っていませんでした。

 

森貴美子さん
どんな色も着こなします!オレンジのニットで頬杖ショット

── 見事オーディションに合格されてモデルとして活動を始めますが、高校3年生だと進路を考える時期でもありますよね。周りの方の反対はありませんでしたか。

 

森さん:通っていたのが商業高校だったので、早い段階で簿記やパソコンの検定をとっていましたし、周りは就職をする友人も多かったです。進路を相談していた先生からは、「厳しい世界だから」と心配されたこともあり、高校卒業後はモデルを続けながらいったん短大に入学したんです。

 

でも両親は一貫して、「自分の好きなことをした方がいい」と応援してくれていました。モデルを続けたい気持ちと、現実的にそれが続けられるかという不安はありましたけど、何事もやってみないとわからないという気持ちが大きくなって、短大を辞めてモデルの仕事に専念しました。

 

── 実際にモデルのお仕事を始めてみていかがでしたか。

 

森さん:ずっとコンプレックスの塊の中で仕事をしていました。人と比べても仕方ないということはわかっているんですが、比べずにはいられない仕事です。持って生まれたもので勝負するところと、自分で努力するところがあるのですが、自分は何で勝負して、何を努力したらいいのかわからない時期もありました。自分の魅せ方についてもそうです。こうなっていきたいという具体的なビジョンがあったというより、いただいた仕事をとにかくがむしゃらに、一生懸命に取り組んでいました。

 

同じ現場で仕事をするモデルさんは、すでに事務所に入っている方も多くて。素人から出てきた私からするとエリートに見えました。オーディションの度に後輩も入ってきますし、自分がどう評価されているかは誌面を見ればわかります。17、18歳で自分がどんなポジジョンにいるかを目の当たりにするのは結構つらかったですね。

 

森貴美子さん
新大久保のおしゃれカフェで。42歳の現在も変わらぬ笑顔

── いつ頃から自分らしさを出せるようになったと思いますか。

 

森さん:25歳を過ぎてからも『non-no』モデルとして撮影に呼んでもらえて、「こんなに長く出続けられているモデルはいない」と周りに言われるようになってからです。長く続けられているのは、自分を必要としてもらえているのかなと思えるようになったのがこの頃です。ちょっと開き直りに近いかもしれないのですが、続けてきたものに対して「これでいいんだ」と思えるようになりました。それに、だんだん求められているものに対して応えられるようになってきていたと思います。

 

── モデルの仕事の醍醐味はなんですか。

 

森さん:商業的な面にはなるのですが、自分が着た洋服が売れたときはブランドさんからも雑誌の編集部さんからも評価されますし、すごく嬉しいですね。自分が表現したことに対しての反響でもありますし、見てくださった方が何か感じ取って数字に繋がることは大きなやりがいです。ファンの方に実際にお会いしたときも、喜んでくださる反応を見て、モデルを続けていてよかったなと思います。

「何かがたりない」とアルバイトを直談判

── マネージャーさんから伺ったのですが、モデル以外の仕事にも挑戦したいと事務所に申し出たことがあったそうですね。

 

森さん:昔から、地に足がついた生活をしていないのではと不安になることがありました。本当にお給料に見合ったお仕事ができているのか、この世界に居続けると見失ってしまうものがあるんじゃないかと思っていたんです。

 

森貴美子さん
カジュアルな装いにベレー帽もお似合い

モデルは、撮影の際、カメラ前で良いパフォーマンスをして欲しいということから、何かと気にかけてもらえます。例えばみんなでお弁当を食べたら、スタッフの方が片づけてくれる。靴もスタイリストさんが履かせてくれて、服も着せてくれる。普段、自分でできることも全部やってもらえる環境です。脱いだ服を畳もうとすると、アシスタントの方が「モデルさんにさせないで」と叱られます。アシスタントさんの仕事を奪うことになるんですよね。

 

決して仕事のせいではないのですが、そういった環境しか知らないことで、「私って、このままだと何もできなくなっちゃうんじゃないか」とか、「一般社会に出たら役に立たない人間なのかな」と感じることがありました。仕事以外でも、友達とご飯に行った際に食事を取り分ける配慮ができなくて、「私、何かがたりない」と実感したんです。そこで、いろんな視野を持ちたいと思って、「モデルのお仕事がお休みになる年末年始に、アルバイトをしたいです!」と事務所にお願いしました。

 

── どんな仕事をしたんですか。

 

森さん:元々、神社や仏閣が好きだったので、27歳の頃にお寺の奉仕員のアルバイトをしました。交通安全祈祷のお寺で働いて、ご祈祷にいらっしゃる方の受付をしていました。車やバイクのナンバーや名前を書いてもらい、祈祷内容を確認して、祈祷料をいただいてご案内する仕事です。

 

普段、出会わないような方とお話するのが楽しかったですね。お坊さんからはわかりやすく仏教の話を教えていただいて興味深かったですし、そのお坊さんは、プリンアラモードが好きな方で(笑)、よくプリンの話にもなりました。

 

最初は年末年始だけということで始めたアルバイトでしたが、それ以外の時期にスイーツ店で働いたこともあります。韓国語に興味を持って勉強していたときだったので、語学の勉強も兼ねて、新大久保のかき氷店で働きました。

 

── 新大久保のスイーツ店を訪れる同世代の方も多そうですが、森さんが働いていることはバレませんでしたか?

 

森さん:それが、まったく。私は、主にかき氷を裏で作っていたので。

 

── まさか裏方のお仕事とは!

 

森さん:充実感がありました。他の仕事をしてみるまでは不安な気持ちが強かったのですが、「私、他のこともできる!」と思うと自信に繋がりました。それまで、「私はモデル以外は何にもできない」と思っていたんです。他の仕事を経験することで、改めてモデルの仕事の素晴らしさにも気づきましたし、モデルをできる環境があるというのは、改めて、運が良かったんだなと感謝しています。本当にいい経験をさせて頂きました。

 

PROFILE 森貴美子さん

雑誌『non-no』モデルとして、17歳でモデルデビューし、12年間レギュラー出演。『mina』『LEE』『nina’s』『HugMug』『サンキュ!』『リンネル』など数々のファッション誌に出演。「森きみ」の愛称で親しまれ、アパレルやジュエリーブランドのデザインにも携わり、これまでに書籍を6冊執筆、出版している。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/森貴美子