急に大きく息を吸ってから「ニャー」と泣いて
── 猫の平均寿命は12~18年と言われているので、それはすごいことです。
吉川さん:これまで仕事最優先だった私ですが、ゲンが亡くなる4日前からは仕事をすべてキャンセルして、ずっと横に付き添いました。ゲンはただぐったりと動きませんでしたが、身体が痛くならないように2時間くらいしたら、身体の向きを変えてあげました。そして、耳元でずっと囁いてあげたんです。「痛くないよ、大丈夫だよ。天国に行ったらまたおかあさん猫に会えるんだね、いいね」って。ずっと声をかけてあげた。それでもほとんど動かなくて、たまに動いたら、向きを変える手助けをしてあげる。それをずっと…。
亡くなる5時間ほど前、それまで鳴くこともなかったゲンがいきなり信じられないような大声で鳴き始めました。そして、肉球に触れたらものすごい力で私の指を握りしめました。最後のお別れを言ってくれたんです。ゲンが旅立った後、3年間は毎晩ゲンのことを思い出して泣きました。
── 本当に悲しい体験だったんですね。
吉川さん:魂のパートナーを失うことが、まさかこれほど辛いとは。心にぽっかりと穴が空きました。あるとき友人から、悲しみから抜け出さないといけない、保護猫を引き取ったら元野良猫のゲンも喜ぶと言われ、ゲンの死後3年半経って保護猫2匹を飼うことに。オス猫だとゲンと比較してしまいそうで、メス猫2匹です。彼女たちの名前も『源氏物語』からで、藤壺と桐壺からフジとキリと名づけて、今でも可愛がっています。この子たちのためにも私は長生きしないといけないんですよね。
PROFILE 吉川美代子さん
1954年生まれ。1977年にTBS入社し、以後37年間アナウンサーとして活躍。TBSアナウンススクール校長を12年間務めた。2014年に定年退職するも、その後も精力的に活動中。
取材・文/佐々木翔