交際することなく、10年来の友人と結婚した元宝塚歌劇団・男役の天真みちるさん。「夫のいいところは、私を好きでないこと」という言葉の真意とは?
お見合いで「結婚は向いてない」と、戸建てを購入
── 宝塚歌劇団を退団した後、お見合いされたこともあるそうですね。
天真さん:「結婚したら経営を奥さんに任せたい」という、ある事業の跡継ぎの方とお見合いをしました。「再就職先として最高じゃない?」と私も最初は乗り気でした。お見合い相手のお母さんも「なんでも教えるから私に任せて!」とすごく頼もしくて気が合ったんです。
でも、いざ具体的に結婚の話が進みだすと、夫になる人が「古き良き妻になってほしい」みたいに言い出して。「あ、結婚ってパートナーに合わせて生活する必要があるんだ」と気づかされました。その瞬間、私に結婚はムリだなと感じて。ずっと独身でいようと、自分で一軒家を購入しました。
── お見合いしたことで一度、結婚願望はなくなったんですね。とはいえ、現在ご結婚されていますが、ご主人とはどこで出会ったのでしょうか。
天真さん:10年ほど前に共通の友人との集まりで知り合いました。もともと夫は宝塚歌劇団の娘役の大ファンで、熱心に観劇に来てくれていました。でも、私に興味がないってあからさまにわかるんです。初対面のとき、男役の私に笑顔で「僕、男役にはいっさい興味ないです」と言うくらいだったから。
すごく優しくていい人なのに、デリカシーがまったくないバランスが絶妙なんですよ。それがおもしろくて、仲良くなりたいなと思いました。最初からお互いにぜんぜん気を遣いませんでしたね。彼からのLINEを既読無視しても、たぶん気にしてないだろうという気楽さがありました。
「僕は君に興味がない」から結婚に至るまで
── 10年来の友人で、お互いに意識していなかった存在だったのに、結婚を意識するようになったのはどうしてですか?
天真さん:夫のご両親も宝塚歌劇団のファンで、私のことも応援してくれていたんです。独身のころ、彼のご両親に会う機会があり「みちるちゃん、うちの息子と結婚しない?」と冗談で言われたんです。夫は以前から結婚願望が強かったのですが、婚活がうまくいかなかったらしくて…。
その提案を聞いたとき「もしかしたら、すごくいい話かもしれない」となりました。というのも、私の両親も「ずっと独身」と宣言する姿を見て、さみしそうなところもあったんですね。周囲からも「結婚しないの?」と思われている気がして。
結婚したら、こうした無言のプレッシャーからも逃れられます。彼とだったらたぶん、気をつかわずに生活できるはずと感じられました。しかも、もし私が「結婚しよう」と言って断られたとしても、友だちとしての関係は変わらないだろうと思ったんです。
だから、「私と結婚したら、たまに宝塚歌劇団の同期がうちに遊びに来るよ。大ファンの娘役さんにも会えるよ」と提案してみたんです。夫も「その手があったか!」と、目をキラキラさせていました(笑)。その後はとんとん拍子で、4か月後には入籍しました。
── ご主人の好きなところはどんなところでしょうか?
天真さん:変な言い方かもしれないんですが、「私を好きではないところ」です。恋愛感情があると、嫉妬したり「いつか嫌われてしまうかもしれない」と不安になったりするかもしれません。
でも、夫は好き嫌いの感情抜きで、すごく優しいんです。それはきっと、今後もずっと変わらないものだろうと思えて安心できました。彼はいつも細やかに気遣ってくれます。たとえば、毎朝、夫のほうが先に出勤するのですが、天気予報で午後から雨と聞くと、玄関に私用に折り畳み傘を用意しておいてくれるんです。
それに、もともと宝塚歌劇団のファンだから、タカラジェンヌをリスペクトしてくれています。誰にでも胸を張って紹介できる人ですね。夫も私と一緒にいるのが当たり前の感覚みたいで。出張で私が家を空けたときに「あ、今日はいないんだ。さみしいな」と感じるくらいの距離感が居心地いいらしいです。
「披露宴風ディナーショー」でファンが喜ぶ姿に…
── ご結婚後「披露宴風ディナーショー」を開催されましたね。これはどんなものだったのでしょうか?
天真さん:退団後、年に1回くらいディナーショーを開催していました。元男役って、ふつうはスーツなど当時の男役の衣装に寄せます。でも、だんだんスカートやドレスを身に着けるようになっていきます。私もいつかドレスを着てショーを開催しようと思いましたが、きっかけがなくて。結婚後、ウェディングドレスでショーをしたらおもしろいかもと思って。オンラインサロンでファンの方に相談したら、「ぜひ観たい!」と、好意的な反応がありました。
ファンの方が元タカラジェンヌの結婚式に出席することはほとんどありません。だから、応援してくれた方たちに披露宴の雰囲気を味わえたら喜んでもらえるかなと思いました。夫も「やりたい!」とノリノリで。ちょうどNHKの番組に夫婦で出演したあとだったから、ファンの方も「旦那さんにも来てほしい」という雰囲気でした。
ウェディングドレスを着るなら、ダイエットをしようと思って。自分だけでは挫折しそうだったから、フィットネスクラブや美容関係に再就職したOGさんたちに相談しました。その方たちの名前を出して、協力してもらったといえば逃げられないし、宣伝になったらいいなという気持ちもありましたね。
これまで何度かディナーショーを開催しましたが、一番皆さんに喜んでもらえたのではないかと思います。たくさんの人に協力してもらい、ファンの方にも直接、結婚の報告をできたのもうれしかったです。今回はあくまで「披露宴風ディナーショー」だったので、本当の結婚式はいずれできたらいいなと思っています。
PROFILE 天真みちるさん
2006 年宝塚歌劇団に入団、花組配属。老老(若は皆無)男女幅広く男役を演じる。2018年10月に同劇団を退団。 2021年8月に「たその会社」設立。代表取締役を務め、「歌って踊れる社長」に。
取材・文/齋田多恵 写真提供/天真みちる