北海道の駅弁で有名な「いかめし」。3代目社長として29歳で家業を継いだ今井麻椰さんですが、慣れない社長業に加え、父と娘が対立したこともあるといいます。 

父と娘のやり方に違いも

── フリーアナウンサーとして働きながら、29歳で家業の「いかめし」の3代目社長に就任されました。お仕事の状況はいかがでしたか?

 

今井さん:想像以上に大変でした。ちょうど、私が三代目を継いだタイミングでコロナが流行り出し、全国の催事場で実演販売ができなくなってしまったんです。売上のメインは実演販売だったので、就任直後に売上がゼロ。とにかく何かしなくてはと思い、急遽オンライン販売に踏み切りました。

 

── 今井さんが社長になってから、会長であるお父様との関係は変わりましたか?

 

今井さん:変わりましたね。私はひとりっ子ですが、普段は両親と私の家族3人、とても仲良しなんです。でも、私が経営を引き継いでからは、父と仕事のことで対立することが増えました。

 

たとえば、父は、昔自分がどれだけ取引先の人を接待したか、それによってお互いに信頼関係を築き、仕事がスムーズにいったかなどを誇らしく語るんです。そして、私にも接待を通してしっかりとした人間関係を築けと言います。でも、私は仕事で結果を出して、対等な取引先として認められたいんです。だから、食事会などの接待などは極力しないし、仕事で結果を出して人間関係を築けば、必ず次の仕事は来ると思っています。

 

また、私は、遠方に住む取引先との打ち合わせは、今の時代の流れもあってZoomでもいいと思いますが、父は頑として「直接会いに行け」と言います。そのほうが相手に誠意が伝わるし、直接会って話すことで、仕事以外の話もできて打ち解けられるから、と。些細なことですが、もちろんお互いに理解はできていても対立することは多いです。私は子どもの頃、まったく反抗期がなかったのですが、今がいちばんの反抗期かなと思います(笑)。

 

いかめし作りにマニュアルはなく、見て覚えるのだそう

── 逆に、お父様がいたことで助かっていることはありますか?

 

今井さん:駅弁業界も、いかを仕入れる水産業界も男社会。若い人はほとんどいません。そんななかに、30代になった女の私が入っても「小娘扱い」されるだけで、全然相手にしてもらえないこともあります。私がどんなに業務提携のお願いをしても首を縦に振ってくれなかった取引先が、父がひと言発しただけでイエスという人もいます。そんなとき、父が築き上げてきたものの大きさを改めて実感します。

頑張りすぎて眠れない日々が1年

── 家業を引き継ぐのも、社長業もなかなか大変そうですね。

 

小学3年生の頃、駅でいかめしを売る今井さん

今井さん:売上やこの先の展望ついて考えていたら、まったく気が休まるときがありません。でも、外ではつねに笑顔でいなければいけないし。一方で、いかめしの仕事を頑張りながら、将来は子どもも欲しいと思っています。そのために、家業を背負いすぎるのもどうなのかと、先が見えなくて不安になることもあります。そうやって、いろいろなことを考えていたら、どんどん呼吸が苦しくなって、夜も眠れなくなってしまう日々が1年ほど続いて。そばで見ていた両親にも心配をかけてしまいました。

 

── ご家族はなんとおっしゃっていますか?

 

今井さん:父と母は「仕事を頑張りすぎて体調を崩すのが心配。仕事だけの人生にしないで、自分が望むように生きてほしい」と言ってくれます。一番の理解者である両親がそう言ってくれるのは、ありがたいと思います。私は、子どもの頃からやってきた「いかめし」の仕事が本当に好きだし、続けたいと思っています。この先も続けていくためにも、少しでも自分がワクワク楽しめるようなことをしたいなと思っています。

 

── 今、チャレンジしてみたいことはありますか?

 

今井さん:今は駅弁の「いかめし」を販売していますが、今後はいかを使った、もっと違う種類のお弁当も販売してみたいです。昨年、京王百貨店新宿店「第57回元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」で、私が開発した「3代目のいかめし de 丼!!」を発売したところ、大好評だったので、新しいお弁当を開発してみたいです。

 

売り場も、今は駅のホームやデパートの催事場などで売っていますが、海外にももっと進出したい。これからは仮想空間などを使って販売するのもおもしろそうだなと思っています。全然違う分野で、オリジナルブランドを立ち上げ、化粧品なども手がけてみるのもおもしろいかなと考えています。まだまだ下準備がかかりそうですが、3年後、5年後に後悔しないように、今忙しくても、どれも手を抜かず全力を尽くしてやっていきます。

 

PROFILE 今井麻椰さん

北海道名物駅弁「いかめし阿部商店」の三代目、フリーアナウンサー。慶應義塾大学卒業後、カナダに留学。2016年から「バスケットLIVE」のリポーター、2020年5月に「いかめし阿部商店」に就任。

 

取材・文/間野由利子