『それいけ!ゲートボールさくら組』(5月12日公開)で認知症の母とともにデイサービスを運営する娘を演じた田中美里さん。母娘の会話から学ぶことも多かったそうです。

 

田中美里さん
達者な大先輩たちが集結した現場について語る田中さん

みなさん同時に自由におしゃべりをするので…

── 人生、そして俳優としても大先輩が集まる撮影現場はいかがでしたか?

 

田中さん:とても自由で楽しい現場でした。みなさんおしゃべりが止まらないのですが、スタートがかかると、ふわっとやってきてセリフを言って、またふわっと戻っていっておしゃべりをして。すごく自然というかリアルというか…。アドリブなのかセリフなのかも分からない感じは面白くもあり、心地よくもありました。大先輩ばかりで私が言うのもおこがましいですが、みなさん個性的でチャーミング。強すぎる個性が映像にも出ていて楽しんでいただけると思います。

 

── では現場では向き合ってしっかりお話をするというよりは、みなさんのおしゃべりを聞いているという感じだったのでしょうか?

 

田中さん:ありがたいことに輪のなかに入れていただけたのですが、みなさん同時に自由におしゃべりをするので、どなたの話に耳を傾ければいいのか…と迷ってしまって(笑)。

 

みなさんのパワーに圧倒されると同時に、私もみなさんのようなパワフルさを持たなければいけないなと気合いが入りました。パッションのようなものを感じ、見習いたいと思う部分はたくさんありました。全員が「面白いことをやろう!」と考えていて、笑いをこらえるのが大変な現場でした。

 

そんななか、藤(竜也)さんが、あの渋さで佇んでいらっしゃる。持っているのはゲートボールの道具なのに、すごくさまになっていてカッコよくて、「なんでこんなに絵になるんだろう…」と感動しちゃいました。

「すっぴんでいいわ」勉強になった役づくり

── 母親役の山口果林さんとの共演はいかがでしたか?

 

田中さん:サッパリとしたカッコよさと芯の強さがある方で、とても素敵だと思いました。メイク室でご自身が持っている役のイメージをはっきりと伝え、「すっぴんでいいわ」と提案し、役になりきって演じていく姿は役づくりの勉強になりました。

 

認知症になり、少しずつ物を忘れていき、気持ちは高校生の頃に戻ってしまうのですが、果林さんが演じるとすごくかわいらしくて愛おしく見えました。私は娘の役なので、母娘のリンクする部分というのでしょうか。果林さんが演じる若き日のサクラも役づくりの参考にさせていただきました。

 

田中美里さん
先輩たちの姿や役柄の会話にたくさんの刺激を受けた

── 認知症、老老介護、8050問題、独居老人など、現代社会で日々取り上げられている身近な問題も描かれます。

 

田中さん:認知症の母親への接し方は、考えさせられるものがありました。物忘れをしたり、学生時代に戻ってしまう母親に対して決して赤ちゃん言葉のような話し方はせずに、一人の大人の人間として会話をするというのは、簡単そうでできないこと。自分だったら何回も同じことを訊かれたら「さっきも言ったでしょ?」と時にはイラッとしてしまいそうだけど、何度でもさらっと対応でき、ニュートラルでいられるのは素敵だと思いました。

 

物忘れが多くなってきた母に対して「さっきも言ったでしょ!」と語気を強めにして言ってしまい、後で反省することはよくあります。おおらかに見守る感じは春子の良さだと思うし、見習いたいです。

「いるだけでおもしろい」先輩たちに嫉妬

── ギャップがかわいいと感じるシーンも多かったです。大きな声を出すイメージがないので、ちょっと驚いたりもしましたが…。

 

田中さん:普段は絶対に出さない大きな声、出しています。スイッチを入れて頑張りました(笑)。コメディーなので、面白くしたいという気持ちはすごくあったし、気合いも入りました。でも、「もっともっと!」と監督からリクエストがありました。みなさんはいるだけで面白くて「ずるい!」と思うことは頻繁にありました。

 

森次(晃嗣)さんはテストで「このタイミングでお願いします」と言われ「はい」と答えたのに、全然違うタイミングでセリフを言っているのに笑わせちゃうし、大門(正明)さんはいい感じにお腹が出ていて、衣装を着ているだけで笑いが取れる。小倉(一郎)さんは子役からやっている細やかな演技力で魅せるし、石倉(三郎)さんはナチュラルに面白くできる。私は一生懸命頑張って疑問や不安を感じながらやっているのに、いとも簡単にポンと飛び越えて笑いをとるのは、さすがのひとことです。

 

── まさに人生経験と役者経験の長さですね。

 

田中さん:本当に。続けなければ、と心から思いました。

「主張はするけど傷つけない」心地いい現場

── これだけの大先輩が揃う現場も珍しいのではないでしょうか。

 

田中さん:この年代の方々のパワーを実感しましたし、いろいろな作品が観たいとも思いました。海外では歳を重ねた方同士の恋愛作品も多くありますし、スポーツでもコメディーでもどんなジャンルでも良いので、シニアの方から元気をもらえるような作品がもっと増えるといいなと思いました。

 

── あのパワーはどこから出てくるのでしょうか(笑)。自分が同じ年齢になった時に、同じパワーを持っている自信はないです…。

 

田中さん:本当に、どこから出ているのかと不思議でじっくり観察していたのですが(笑)。仕事でもプライベートでもまだまだやりたいことがたくさんあるというお話をされていて、本当に元気だなって。

 

私なんて最近はお酒の量も少しずつ減ってきて、0時前には寝たいななんて思っているけれど、多分、さくら組のみなさんはトーンダウンするときはないと思います。言いたいことははっきり言うけれど、嫌な感じがないのもすごくいいなって。ナチュラルに自分の意見をはっきり言い合える現場はいいなって、ほっこりしちゃいました。

 

── そういう現場は少ないですか?

 

田中さん:言い方に気をつけて、というのは当たり前のルールとしてあるのですが、さくら組のメンバーは本当に思ったことをズバッと言うんです(笑)。でも誰も傷ついたりはしなくて。言ったことが通らなくても「そっか、ダメか。仕方ないな」って感じでサッパリとしています。

 

── 映画での関係性と一緒ですね。思ったことはハッキリ言って、悪いと思ったら謝ればいいみたいな。

 

田中さん:そうなんです。それをすべての方が持っていらっしゃるのに、決してぶつからない。すごく潔くて分かりやすい居心地のいい現場でした。

 

<作品情報>
映画『それいけ!ゲートボールさくら組』
5月12日公開
配給:東京テアトル
(c) 2023「それいけ!ゲートボールさくら組」製作委員会

 

取材・文/タナカシノブ