クラスでは目立たない子だったと語る北陽・伊藤さおりさん。芸人として活動をスタートするも、生活は苦しかったと言います。それでもなぜ芸人を目指したのでしょうか。(全5回のうち1回) 

「金もなければ仕事もない」周りは煌びやかになるなかで

── 芸人として活躍されていますが、学生の頃から人前に立ったり、誰かを笑わせたりするようなことが好きなほうだったのでしょうか?

 

伊藤さん:真逆ですね。学生時代はシャイで異性と話せないし、クラスの隅っこにいるような、おとなしい女の子でした。ただ、中学生のときに米米クラブのバックダンサーを見たときに、カッコいい…!って思って。将来は、歌ったり踊ったり、何か楽しそうな仕事に就きたいなぁと、漠然と思ったことは覚えています。

 

── 95年から芸人として活動をスタートしましたが、下積み時代は苦労もあったそうですね。

 

伊藤さん:今思えばすごく楽しかったし、いい時代なんですけど、当時はきつかったですね。あの頃、中野新橋の2万7000円の風呂なしアパートに住んでいて、トイレも共同トイレだったんです。住んでいる方も外国の方が多く、国によって、和式トイレの入り方も違ったのかな?キッチンも、小さいキッチンはありましたけど、とても料理する感じじゃなかったし。周りの友達は20歳を超えて、どんどん煌びやかになっていくなかで、私と虻ちゃんはいっつもジャージ。お金もないし仕事もない。私たち、何やってるんだろう…って、よく話してました。

 

── 途中で、芸人を辞めたいと思ったことはありますか?

 

伊藤さん:何度もあります。ただ、虻ちゃんが辞めたいって言ったときは私がやる気に満ちていて、私が辞めたいと言ったときは虻ちゃんが「もうちょっと頑張ろう」って、ただそれだけで繋いでいた感じ。それでもやっぱりきつくなって、24、5歳の頃、1回2人で休業したんですよ。半年間のつもりが結局、1年くらい休みましたね。

 

── 休業中は、どのように過ごされていましたか?

 

伊藤さん:和服を着て、カウンターのある小料理屋でバイトしてました。和服は着る手間がある分、時給もいいんですよ。そこで、卵焼きの作り方を教わったり、お客さんも来てくれたりして、楽しかったですね。芸とは関係ないけど、社会的な勉強はさせてもらったのかなと思います。

 

── そのまま芸能界の仕事から身をひこう、と気持ちが揺れることはなかったですか…?

 

伊藤さん:芸人としてスタートしてしまったものを、結果が出ないまま終わっちゃうと、ただの失敗になっちゃうじゃないですか。18、19から20代のうら若き大事な時代を、貧乏で寂しい生活を過ごした分、結果を出さないと終われない、みたいな気持ちがあったんですよね。その時代を絶対に無駄にしたくなかったというか、貧乏根性がすごいですけど。腹を括ろうと思いました。

番組は人気になったが私の生活は…

本番前に衣装を整える伊藤さん

── その後、2001年に「はねるのトびら」の出演が決まりました。

 

伊藤さん:私が27、8くらいのときに番組が始まったのかな。はじめは、オーディションの年齢制限に引っかかってしまって、オーディションを受けられなかったんです。番組としては、無名の若手を集めて、深夜からゴールデンに持っていこうって狙いもあったみたいで。後に一緒に仕事をしたキングコングの2人も、当時20過ぎくらいだったような。他の番組でも、27くらいになると若手から外れてしまって、オーディションすら受けられないことも増えていたんです。年齢的にもちょっと焦ってましたね。

 

その後、結局「はねるのトびら」の後半組のオーディションを受けさせてもらえることになりましたが、もう必死でした。このオーディションに受からなかったら、芸人を辞めようと思うくらい、覚悟を持って、人生を掛けて、オーディションに臨みましたね。

 

──「はねるのトびら」は約10年続いた人気番組になりましたが、伊藤さんの生活は変わりましたか?

 

伊藤さん:数年間は、相変わらず風呂なしアパートの生活のままでした。銭湯通いが日課になってて、銭湯にあるサウナに入るのがご褒美でしたね。収録前にサウナに入って気合いを入れたり、収録が遅くなって銭湯に行けないときは、家の洗面所で頭を洗うとか…、今思えばすごい生活ですけど(笑)。

 

番組が始まってから数年後には引っ越しをして、風呂ありアパートになりました。でも、家賃も6万くらいだったかな。派手に遊ぶとか、華やかな場所にも行ってないし、ずっと地味なまま。ただ、その頃から仕事も増えて、スケジュール帳も埋まってきて、今思えばありがたい時間だったと思います。

 

PROFILE 伊藤さおりさん

1974年生まれ、埼玉県出身。北陽のメンバーとして活動。YouTube「北陽チャンネル」や静岡朝日テレビ「とびっきり!しずおか」でも活躍中

 

取材・文/松永怜