テレ朝時代とフリーへの転身

── 言葉で伝えることのプロとしてテレビ朝日のアナウンサーとして活躍されました。当時は自分を追い込んでいたそうですね。

 

宇賀さん:最初の頃は「月に3回噛んだら辞める」と自分に課していました。

 

── 結果はどうでしたか。

 

宇賀さん:できていたんじゃないかと思います。逆にいうとそれしかなかったんです。誰に言われたわけではないのですが、ハードルを自分で設定していました。噛むか、噛まないかというのはそこまで重要なことではないのかもしれませんが、「あの子、噛んでる」って、新人の失敗としていちばんわかりやすいなと思ったんです。

 

当時は「入社したその日からテレビに出てすごいね」と言われましたけど、それは1年経ったら関係なくなること。「報道ステーション」でお天気を担当させてもらっていたのですが、周りはどんどん新しいことをしているのに自分は同じことをしている。

 

足踏みしている感じがして不安でしたし、すごく焦っていました。でも、周りから見たら順風満帆に見えていたのだと思います。本を書いて初めて「そういうふうに思ってたの?」と言われることが多いです。

 

宇賀なつみさん

── フリーになろうと思った理由はなんでしょうか。

 

宇賀さん:次の一歩を常に探しているんです。テレビ朝日のアナウンサーになることはできたけれど、10年経つと、その先の自分の姿が想像できてしまうことがあって。仕事をこなすようになってしまったら会社にも失礼ではないかと。一歩踏み出してみたいという気持ちが勝って、決断しました。

 

今でも毎週というくらい通っていますし、私にとってのホームはテレ朝しかないので、気持ちのなかではまだ辞めていないような感覚もあります。同期のLINEにも入っていて、いまだに仲良くしていますし、「あぁ、そろそろ番組改編の時期だな」とか思いますよ。テレ朝があっての今の自分です。

 

── フリーになった今、これまでは社会に決められていたことが多かったとエッセイに書かれていました。

 

宇賀さん:小さい頃から勉強をしなさいと言われたこともないし、すべて自分で決めてきたと思っていたんですが、振り返ってみたら社会に決められていたのかもしれないと感じたんです。

 

大学受験も就職活動も、周りのみんながしていたからしなきゃと。仕事が始まったら当たり前のように頑張らなきゃならないと思っていましたし、やっと仕事ができるようになってきたら、次は、結婚は?子どもは?と。これが一生続くのかなと思ってしまった。やっぱり私は、自分で決めたいと。このあたりで気づけて本当に良かったです。

 

これからの人生は自分で決めようと思っています。今は人生でいちばん自由です。事務所にも入っていないので、仕事も自分で選んでいます。自分で決めることで責任も持てますしね。

今がいちばん自由

── 現在出演されている「土曜はナニする!?」で担当している「宇賀なつみのてくてく朝さんぽ」では自由さが伝わってきます。

 

宇賀さん:最初、「ひとりで散歩して」と言われたときは「ひとりで!?間、持ちます!?」と正直思いました。今まで必ず誰かが一緒にいて、進行をすることが多かったんですが、すべてを私の好きにしていいと。本当に素のままでいさせてもらっていますが、正直、自分でVTRを見返しても面白くないんです(笑)。

 

── そんなことないですよ!

 

宇賀さん:どうしたらいいか悩んだのですが、お休みの日の朝は、爆笑を誘う面白さより、「なんだか楽しそう」というほうがいいという分析みたいなんです。ゆったりと「今日は何しようかな」という感じで見てくださっている時間帯なので、それでいいんだというのも新しい発見でした。

 

宇賀なつみさん
「土曜はナニする!?」出演のため、毎週大阪に通っている宇賀さん

── 局アナ時代とはだいぶ違いそうですね。

 

宇賀さん:まったく違いますね。あまり何も考えなくなりました(笑)。進行をしなきゃ!と思うと、「ここはこう、次はこう入って…」と常に頭をフル回転で考えていますが、今、求められていることは素で楽しむこと。

 

でもよくよく考えてみると、小さい頃から一貫して、知らないことを知りたい、会ったことがない人に会ってみたいという好奇心と、それを「ねぇ聞いて」と人に話すことが好きなことが変わっていないんです。

 

これをずっとしてきたので、仕事もその延長線上だと感じます。プライベートと仕事の線引きも、どんどんなくなってきました。

 

── 「土曜はナニする!?」は緊急事態宣言中にスタートしたそうですね。

 

宇賀さん:番組の出演が決まった頃はコロナに対して、まだそこまでの実感はありませんでした。実際に番組がスタートしたのが最初の緊急事態宣言のときで。最初の2か月はお台場のフジテレビから出演したのですが、6月以降は関西テレビから。大阪に通っていたのですが、東京から大阪に向かう新幹線も、1両に私ひとりだけのときもありました。

 

── 少し前の話なのに、今とは全然違いますね。

 

宇賀さん:ようやく戻ってきた実感がありますね。でも当時はありがたいと感じていました。仕事のために移動することができたので、よし、これも旅と思って楽しもうと。

 

今までのような旅行はできなくても、コロナ禍を通して、遠くに行くことだけが旅じゃないと思えました。小説や映画を見るのも旅。主人公が生まれた場所や、どこで生きているかというのを感じると情景が浮かんできますし、旅系のYouTubeや旅のドキュメンタリーを見て、コロナ禍が明けたらどこに行こうとずっと妄想していました。

 

暇だから日記を書き始めた小学生のときを振り返ってみると、当時がいちばん不自由でした。学校が始まる時間も、ご飯を食べる時間も決まっていて、子どもだから放課後だって遠くに遊びに行けない。中学、高校、大学とだんだん行動範囲が広まって、社会人になって。会社員からフリーランスになった今が、人生でいちばん自由だなと思います。

 

PROFILE 宇賀なつみさん

宇賀なつみさん

1986年生まれ。2009年テレビ朝日入社。「報道ステーション」をはじめ情報、バラエティ番組を幅広く担当。2019年に退社し、フリーランスに。テレビ、ラジオを中心に幅広く活躍中。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/宇賀なつみ