子どもの置き去りを防ぐため、政府は今月から幼稚園などの送迎バスに安全装置の設置を義務づけました。自動車メーカーで初めて送迎バスの安全装置の販売を開始するトヨタ。

 

「死亡事故が発生した夏までにどうしても悲しい事故を亡くしたい」と、急ピッチで開発したという経緯や「実際に園児に押してもらって実験した」という、子どもが助けを求めるためのボタンについて伺いました。

日程を短縮して開発

── 安全装置の開発はいつ頃からスタートしましたか。また、開発を決めた理由を教えてください。

 

トヨタ 広報:車内に置き去りにされた幼児が犠牲になるという大変痛ましい事故を一件でも防ぎたいという思いから、本製品の開発を昨年9月頃より進めてきました。

 

トヨタの送迎バス安全装置
車内に取り残された子どもがボタンを押すとクラクションが鳴り、ハザードランプが点滅して車外に知らせる「ここだよボタン」にはひよこのイラストが

「お子様の死亡事故が発生した夏までに悲しい事故をなくしたい」との想いで、これまでの開発日程から大幅に短縮できるよう、既存部品を流用しながら、社内外の関係者が一丸となって短期開発を進めました。

 

── どのように子どもの安全を守るのでしょうか。

 

トヨタ 広報:エンジン停止(IG/ACC OFF)後、運転手に音声案内で車内の確認を促します。幼児が取り残されていないか、車内の確認をしながら最後尾に設置された「降車確認ボタン」を押すと音声案内が停止します。

 

音声案内開始から一定時間経過しても降車確認ボタンが押されない場合、ホーンの吹鳴とハザードランプの点滅で車外へ警報する仕組みです。

 

トヨタの送迎バス安全装置
車内の最後尾に設置された「降車確認ボタン」は運転手が車内の点検をしたあとに押す

万が一、幼児が置き去りにされた場合、幼児がみずから「ここだよボタン」を押すことで、ホーンの吹鳴とハザードランプの点滅で車外へ警報します。ハイエース(集中ドアロック付車)では、「ここだよボタン」に連動してドアロックが解除されます。

子どもが助けを求めるためのボタン

── 事故が相次いだあと、幼児が自分でクラクションを鳴らし、助けを求める方法を訓練する園などもありました。

 

トヨタ 広報:国交省のガイドラインに規定はないものの、点検完了ボタンがあっても万が一置き去りになってしまった幼児がいた場合に何とか助かってほしい、周囲の大人に幼児を助けてあげてほしいという想いで、「ここだよボタン」はあえてオプションなどにせず標準設定にいたしました。

 

音量については、自動車用のクラクションを鳴らすため、大きな音量で車外にも聞こえます。なお、盗難防止用のアラームと混同されない音の鳴り方にしています。また、「ここだよボタン」近くに貼るシールも「ひよこのボタンを押してね」と先生が幼児に伝えやすいようイラストを入れ、外国籍の子どもが乗るケースも想定し「HELP」と英語の表記も入れています。

 

── 海外のスクールバスでは、子どもの置き去り防止のためにすでに同様の装置がつけられていますが、開発にあたって参考にした点はありますか。

 

トヨタ 広報:アメリカや韓国のスクールバスで採用されているシステムの音声ガイダンスや警報の音量、時間などを参考にしながらも、実際に幼稚園・保育園の先生方へのヒアリングを行ったり、試作車を見ていただいたりしながら、日本に合った仕様を検討いたしました。

 

開発にあたっては、現場の先生方にボタンの取りつけ位置やデザインについてご意見をいただいたり、実際に幼児にボタンを押してもらったりするなどして実験を重ねてきました。

 

トヨタの送迎バス
子どもたちが利用する送迎バスの車内

── 政府は、送迎バスに安全装置を設置する費用を、1台あたり17万5000円を上限に補助するとしています。装置は10万円前後で販売予定とのことですが、値段設定の理由をお聞かせください。

 

トヨタ 広報:新車だけではなく、すでにお使いただいているなるべく多くの幼児バスに後から装着していただきやすいよう、補助金の上限額に関わらず、少しでもお買い求めいただきやすい金額に設定しました。

 

── 安全装置を利用する園や保護者向けにお願いしたいことはありますか。

 

トヨタ 広報:置き去りの確認を支援するための装置になりますので、日頃の運用と合わせてご使用いただき、置き去り事故防止に繋げていただければと思います。また、月1回実施している防災訓練などと合わせて、定期的に万が一の場合の置き去りに対して幼児が「ここだよボタン」を押す訓練を実施していただきたいと思います。

 

「車内に置き去りにされた幼児が犠牲になるという大変痛ましい事故を一件でも防ぎたい」という想いから、関係者一丸となって本製品の開発を進めてまいりました。ご家庭でもいざというときにこのボタンを押すよう、お子様にお話しいただけると幸いです。当製品が事故を防ぐ手助けになりますと嬉しいです。

 

── 販売予定の安全装置は、対象車種がトヨタのコースターとハイエースに限られています。今後、他の車種や他メーカーの送迎バスにも対応可能な装置を開発される予定はありますか。

 

トヨタ 広報:今後の商品計画、他社の商品についてはお答えできませんが、できる限り多くの車種にも採用できるよう、検討を進めております。


取材・文/内橋明日香 画像提供/トヨタ自動車