声優の三石琴乃さんは、アフレコ現場で、多くの声優と共に掛け合いのシーンを演じることで芝居の基礎を学んだり、先輩の芝居を見てまねたりすることで、技術を磨いてきました。しかし、コロナ禍以降、個別収録に変更になり、他の声優の芝居を見て学べる機会が減少。新人が成長する機会が失われつつある現状に、今思うこととは。(全5回中の4回)

コロナで変化、人気声優に仕事が集中

── 著書『ことのは』では、コロナ禍以降、アフレコが集団での掛け合いから少人数や個別での収録方法に変更になり、若手が育ちにくい環境になったことについても触れられています。危機感があれば教えてください。

 

三石さん:今までのやり方で育てるのは、難しくなっていると思います。なので、養成所ではどうしているんだろうと(養成所同期の)森川(智之)君に聞いたりしたんですけど、やはりこれといったやり方とか教育システムとかはまだどこも構築されてはないようで、基本的なお芝居の授業だそうです。

 

── 収録のスケジュールの組み方が変わったことによる変化もあったそうですね。

 

三石さん:そうですね。コロナ前だったら、収録のために10時~15時、16時~21時で押さえられて、声優がみんな集まって、アニメを1本収録する。だからアニメをやるにも、1日2本が限界だったんです。

 

通常は「この時間帯が確保できないならムリですね。じゃあ他の人にお願いします」となっていたんですよね。

 

だけど、コロナ禍以降、密を避けるために、時間差で個別に収録することになりました。そうすると、拘束時間は1時間だけなどと短くなるので、他の作品の収録を入れることができるんです。

 

これまでなら制作さんは、欲しい役者さんが他の番組でキープされていたら、キャスティングはできなかった。でも今は2~3本の作品の収録をハシゴすることもできるんです。

 

演じるほうは、いろんな世界を行ったり来たりするので大変だと思いますが、優秀な声優は器用な人が多いので。ただ、そうすると、売れている声優に仕事が集中することにもなる。

 

収録がストップしたことや、個別収録の影響で「(コロナ以降)パタッと仕事が減った」と言っていた人もいます。

 

コロナ禍以降、密を避けるために収録方法が個別収録に変更に。思わぬ弊害を生んでいる(写真はイメージ/PIXTA)

芝居は「気持ちで交流しないと成立しない」

── 一方で、声優を目指す人や実際にデビューする若手声優は増えている印象があります。懸念していることはありますか?

 

三石さん:私が憂いてもまったくしょうがないんですけど、若手が増えているというのは、中堅に育っていないという見方もできるんですよ。若手はどんどん出てきますし、フレッシュで新しい声を持っている。

 

新人が増えるというのは私の時代も同じだったと思うんですが、ただ、そのあとの中堅、ベテランという流れに乗っていきにくくなっているんじゃないか、と思います。

 

今はアプリゲーム花盛りの時代ですが、ゲームって1人で収録するんです。ほとんど細かい芝居の演出がなく、すぐにOKになるケースも多いんですね。

 

── そうなんですね。

 

三石さん:そういう仕事を重ねて、基本的な技術を身につけないままだと、たとえばそのゲームがアニメ化するとなったときに「会話をする」という演技の基本からまず学ばないといけない、という状況になり、当人は「今までOKだったのになぜ?」と困惑してしまうかも。

 

そうすると、女の子の役をやったら、今度はお姉さん、先生、お母さんといった役を広げていくのも時間がかかるでしょう。

 

もちろん、ゲーム業界が盛り上がっていることは喜ばしいことなんですが、意地でもその役限りで終わるような声優になってほしくないな、という思いはあります。

 

三石琴乃さん
穏やかに微笑む三石琴乃さん

── 以前あるベテラン声優がテレビ番組で「若手声優の使い捨てが心配だ」と問題提起されていたのも話題になりました。中堅に育たないというのは由々しき問題だなと思います。

 

三石さん:今の収録方法では、しょうがない部分もあります。

 

ただ、お芝居って、人と人とが接して、芽生えた気持ちで交流をしないと成立しない世界だと思うんですよね。そこに気づくかは本人次第。今後、規制が緩和されてからが勝負になると思います。

 

── 収録現場で技を盗むといえば、三石さんはいまだに後輩の人でも気になる声の人がいたら、真似をしてみるそうですね。今若い人でどんなかたに注目されていますか?

 

三石さん:それはステキなセリフだなと思った人や売れている人たちですね(笑)。ただ、今はできあがった作品しか見られなくなってしまいましたので、空気感までは見えません。収録方法の変更は、本当に大打撃だと思いますね。

 

PROFILE 三石琴乃さん

1989年に声優デビュー。「美少女戦士セーラームーン」月野うさぎ役、「新世紀エヴァンゲリオン」葛城ミサト役、「呪術廻戦」冥冥役など、ヒット作に名を連ねる。近年では「リコカツ」(TBS)などドラマ出演も。声優生活を振り返ったエッセイ『ことのは』を上梓。

 

取材・文/市岡ひかり 写真提供/『ことのは』(主婦の友インフォス)