男子とともに甲子園を目指した野球少女も、いまや1児のママ。妊活や出産を経て、社会人野球監督との両立に挑戦中。チームでもう一度優勝したいし、どうしても憧れの甲子園のマウンドに立ちたい。尽きぬ野球への思いは、結婚と出産を経てどのように変わったのでしょうか。(全4回中の4回)

 

3人とも笑顔!結婚式の“夫婦”ツーショットに欽ちゃんもかけつけた

夫との出会いは「クリーニングのタグが気になって」

── 社会人野球で女性監督として初優勝を果たした片岡さん。2017年には、元プロ野球選手の小林公太さんとご結婚。クリーニングの「タグ」がきっかけだったとか。

 

片岡さん:いきつけのバーで、スーツからクリーニングのタグが出たままの人がいたので、友達とこれは教えてあげないとかわいそう、って(笑)。

 

声をかけたら、以前、試合で対戦したことがある方とわかって話が弾みました。当時、公太くんは留学からの一時帰国中だったのですが、おつきあいすることになりました。

 

彼は発想が自由で、私には思いつかない選択肢を持ち、アプローチできる人です。

 

帰国してからは突然ラーメン屋を開いて、ちょっとびっくりしましたが軌道に乗りました。頭でっかちな私をほぐしてくれるので、いい組み合わせだなと思います。

── 2022年に男の子を出産されました。少しの間、妊活されていたそうですね。

 

片岡さん: 体力には自信があったので、とくに妊娠・出産についてはほとんどケアしてきませんでしたが、自己流だとなかなか授からなくて、流産も経験しました。

 

女性の先輩アスリートから「体力があると妊娠・出産もOKと思いがちだけど、ふだんから婦人科に行って自分の身体を把握したほうがいいよ」と、早くからアドバイスを受けていたのですが、素直に従わず…。

 

もともとなかった生理痛が30代で始まったのに、目の前の試合や記録更新に必死で、自分の身体を振り返るひまはないと思いこんでいました。

 

2回目の流産のときには休まないといけなかったので、キャプテンや助監督などに妊活中で流産したことも伝えると、3人とも「大丈夫」「思うとおりにしてください」と言ってくれたので心がラクになりました。

「子育てか野球か」二者択一ではないと思う

── 事情を理解してくれて、いざというときに頼れる人がいると気持ちが楽ですね。片岡さんは妊娠中や産後も、監督業を続けています。

 

片岡さん: はい。夫が協力的だったのもあり、半年ほど婦人科に通って妊娠。お医者さんに確認し自分で運転して、茨城のグラウンドまで回数を減らしながら練習に通っていました。

 

ただ、前置胎盤のため、後期は安静。オンラインでキャプテン、副キャプテン、助監督とミーティングを行いました。

 

──「野球か子育てか」で悩むこともありますか?

 

片岡さん:産後、グラウンドに行く回数は以前より減っているのですが、監督は続けています。

 

野球より子どもになっちゃったって言われたらイヤだな、現場や他の人に任せたほうがいいかなと考えたこともありますが、いまはみんなのおかげでなんとかやれていますし、ダメって言われたら考えようって(笑)。

 

子どものために監督やめた、なんて後で息子が聞いたら悲しむだろうし、子育てか野球かの二者択一ではないと思います。

 

子育てをしているとつい、迷惑かけて「すみません」って言ってしまいがちですが、周りと協力しながら「ありがとう」って、言うほうが健康的ですよね。やれるところまでやってみようと思います。

「夢はまだ達成できていない」待ってて!甲子園

── ママになったことで野球への意識は変わりましたか?

 

片岡さん: やりたいことへの思いが強くなりました。欽ちゃんからは「企業に勝って1勝、妻になって1勝、ママになって1勝。この3つの1勝をあゆみに託す」って言われましたが、まだすべてはかなえられていません。

 

以前より制約が増え、約束を果たすのは難しくなりましたが、難しいことに挑戦するってかっこいいですよね。私の監督姿を息子に見せたいし、優勝メダルをかけてあげたいんです。

 

── 30年近く野球に人生をかけ、男社会のなかを女子ひとりでさまざまな扉をあけてこられました。いま、野球への思いは?

 

片岡さん: 死ぬまでにどうしてもかなえたい夢はやはり“甲子園”。OB・OG向けのマスターズ甲子園に、母校のユニフォームを着て参加したいです。

 

選手引退はそれからですね。いつになるかまだわかりませんが、参加資格を満たすために社会人野球の選手登録を抹消し、マスターズに備えています。

 

あんなに憧れ続けた甲子園で見る風景は?自分はどんな感情を抱くのか?すごく興味があります。

 

よく「夢はでっかく」と言われますが、夢の大きさを決めるのは私自身。自分の憧れや思いの強さを大切に、これからも野球と向き合っていきたいです。

 

PROFILE 片岡安祐美さん

1986年、熊本県生まれ。熊本商業高校硬式野球部に入部。高校時代に女子野球世界選手権日本代表に3年連続で選出。社会人野球クラブチーム「茨城ゴールデンゴールズ」に入団、2010年に監督就任。2014年に全日本クラブ野球選手権優勝。2017年に元プロ野球選手の小林公太さんと結婚、2022年長男を出産。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/片岡安祐美、株式会社佐藤企画