母との不仲から「買い物」しているときだけが幸福に
自助グループで、田中さんは少しずつ生まれ育った家庭のことを話すようになりました。
そのときになり、はじめて「自分の生い立ちはおかしかった」と自覚したのです。
「祖父は働かずパチンコばかり。父もギャンブルで会社のお金を横領し、懲戒免職となり離婚しました。私は母子家庭で育ち、経済的に苦労して育ちました。
母は私に期待を寄せ、『いい学校を出て、みんなに自慢できる人と結婚し、周囲を見返してほしい』と望んでいました。私はその思いに応えられず、苦しかったです。
でも、その気持ちにフタをして、ずっと気づかないようにしていました。
自助グループではじめて過去を振り返ったことで、『母はありのままの私を認めてくれなかった』と、母への怒りが爆発したのです」
自助グループで母への怒りを自覚した田中さんは、生まれて初めて、母親本人にこれまでの不満をぶちまけます。その結果、話ができないほど関係が悪化…。
つねに母への怒りが忘れられず、苦しい毎日でしたが、買い物をしているときだけは癒やされたそうです。
最初は安い文房具程度で満足していたのが、次第にエスカレート。クレジットカードを使い、次々と高額なブランド物を買いあさるように。
借金を重ねて買い物をし、返済できなくなると購入したものを転売。借金は雪だるま式に増える一方です。
こうなると買い物はまったく楽しくなく、苦しいだけのものに。それなのに、やめたくてもやめられません。田中さんは買い物に依存するようになっていたのです。
「このころすでに自助グループで依存症について学んでいたから、頭のなかでは自分が買い物に依存し、おかしくなっているのはわかっていました。
それでも、どうしても買い物をやめられません。他の仲間はどんどん回復していくのに、私だけが依存から抜け出せないのです。自助グループの仲間に泣きながら苦しさを打ち明けていました。
いま思えば、自助グループに通い始め、自分を受け入れてもらえる場所ができ、安心できたからこれまで抑え込んでいた怒りの感情をようやく開放できたんです。
ただ、その感情があまりに激しく、コントロールする方法がわからなかったから、買い物依存症におちいってしまいました」