依存症でも「人生に絶望しなくていい」と気づいた瞬間
苦しむ田中さんの人生を大きく変えたのが、友人から誘われて参加したアルコール依存症の研究会です。
その研究会で田中さんはギャンブルや買い物、共依存など、依存症全般から回復するために、考え方のクセなど見つめ直し、生き方を変えていく『12ステッププログラム』の必要性を知りました。
「このプログラムはもともと、アルコール依存症を回復させるためにつくられたものです。現在は世界中でさまざまな依存症の治療に使われています。
研究会に参加してみて、『きちんと12ステッププログラムに取り組んでいなかったから、依存症から私は回復できなかったんだ』と気づきました」
プログラムの第一歩は、「自分は自分の人生をコントロールできない」と認めること。
人は無意識のうちに、自分のことをすべて把握しているつもりになっています。でも怒りの衝動や不安など、制御できないものもたくさんあります。
依存症全般においても、やめられない自分を責めるのではなく、まずは「自分ひとりで依存症から抜け出すのは難しい」と現状を認め、受け入れることが重要だといいます。
そのうえで、周囲の力を借りながら、みずからの過去を振り返り、考え方のクセや生き方を変えていきます。
「プログラムを実践していくうちに、少しずつ母との仲も改善されました。母も悩み、母なりに『私を愛していたんだ』と受け入れられて。時間はかかりましたが、現在は良好な関係を築けています」
12ステッププログラムの最終目標は、同じ問題で困っている人を助けることです。
自分たちの活動により、誰かが幸せになるのを目にすることで自己肯定感が上がり、幸福感が得られ、依存から抜け出せるようになるといいます。
「依存症におちいると『もう治らない』『人生終わった』と、絶望する人は少なくありません。依存症かもしれないと悩んだり、借金をしてまで何かに依存したりする場合は、少しでも早く相談してほしいです。
一方で誰にも相談できず、問題を抱えこむ当事者や家族の方もたくさんいます。多くの人たちに正しい知識を伝え、仲間はたくさんいると知ってもらいたいです」
取材・文/齋田多恵 写真提供/田中紀子