「今後の目標って、ないとダメですか?」
── これからの目標や、今後やりたいことはありますか?
山田さん:それは僕が忌み嫌っている質問ですね(笑)。
── すみません。こういう質問は嫌かな、と思ったんですが…。
山田さん:嫌とかじゃなくて困るんですよね。これからの目標と言われても。やりたいことはそんなにないですね。とりあえず下の子が成人するまで飯を食わすという、本当にそれぐらいしか目標がない。
お笑いに関しても、かっこよく聞こえてしまうかもしれないけど、たまたまこれで飯食えてるから続けているだけで、得意でも向いてもない、という自覚があるから。本当に目標とか今後の展望みたいなものはないです。
ただ、家族が食えるだけの働きをできるように、最大限努力はしますけど。
文章書いたりすることも、仕事を振ってもらえるのでやってますけど、好きかと言われたら、しんどいと思ってるんです。憂鬱ですわ。
インタビューを受けるときも「山田さんは文才がありますね」みたいなことを言っていただくのは嬉しいんですけど「小さいときから本を読まれてきたんですよね」みたいに言われる。
なぜか人ってバックボーンを求めるんですよね。
── そうかもしれません。
山田さん:そういう意味でも、「今後の目標って、ないとダメですか?」という気持ちがすごくある。僕の人生、47年間、行き当たりばったりですよ。
小、中学校のときも、優等生みたいに言われていたけど、そういうふうに振る舞ったら褒められるからやっていただけの話で。
よくよく考えたら、中学生くらいになったら、みんな「将来はこういう職業に就きたい」とか、ぼんやりでも目標があったと思うんですよ。
僕、いっさいそういうのがなかったので。
この間、当時の卒業文集を見たら、なんとなく「学者になる」とか書いてました。母校に呼んでもらったんですよ。小学校の周年式典で、後輩たちにメッセージする、という。
実はその1年ぐらい前に、仕事先で友達に会ったときに、卒業アルバムを持ってきてくれて。
「なんて書いたかな」と思って見ると、当時は作文のゾーンがあって、みんな「楽しかった運動会」とか「仲間たちとの思い出」とか書いてあるんですけど。僕だけ「戦争と僕」というタイトルの作文が載ってたんですよ。
── 小学校の卒業文集っぽくはないですね(笑)。
山田さん:「嘘つけお前!」っていうね(笑)。ええ感じに見られたいだけやんけ、という。そういういやらしい子どもだったんですよ。
で、寄せ書きするところがあって、そこにみんな将来の夢とかいろいろ書いてあるんですよ。僕はなに書いてるのかなと思ってみたら「七転び八起き」って書いてあったんです。
今、小学校以降の人生を考えると「7回以上転んでるで、自分」と(笑)。一応起きてはいますけどね。
──(笑)。
山田さん:話を戻すと「今後こうなっていたい」とか、そういうことを考える人って、それこそちゃんとNISAとかやる人だと思うんですよ。株とか、仮想通貨とか。そういうのをめんどくさがらない人だと思うんですよ。
僕はめんどくさい、しんどい、というのがなにに対してもあるので。たまたまできることをやって、たまたま食えてるだけ、という感じですね。
PROFILE 山田ルイ53世さん
1975年生まれ。六甲学院中学に進学後、6年間のひきこもり生活に。大検(当時)を経て愛媛大学に入学後、中退。99年に「髭男爵」を結成。2008年「貴族のお漫才」でブレイク。エッセイやラジオなど多方面で活躍。
取材・文/市岡ひかり 撮影/植田真紗美