「野球は何人でやるんですか」から始まったキャスターの仕事
── それまでとまったく違う世界に飛び込まれたわけですが、とまどいや葛藤はありましたか?
寺川さん:もちろんありました。周りのキャスターの方たちは、たくさん勉強をされてきて知識もあるし、人前で話す練習を積んでいる方ばかり。
そんななかに、水泳しかしてこなかった自分がポンと入ることに引け目を感じ、「この場所に私がいていいのだろうか…」と、ずっと思っていました。緊張で毎回、お腹が痛かったですね。
本当に“水泳のこと”しか知らなかったので、ほかのスポーツの知識もまったくなくて。
“野球って何人でやるんですか?”“セ・リーグとパ・リーグっていったいなんですか?”のレベルでした。
── それは…なかなかですね(笑)。
寺川さん:お恥ずかしいです(笑)。とにかくそんな状態でしたから、スタッフの方から「とりあえず、これを読んで理解しておいてください」と『プロ野球名鑑』を渡されたのですが…。
名鑑は分厚いし、覚える情報が多すぎて、頭が真っ白に。“すごいところに足を踏み入れちゃったな…”というのが、正直な感想でした。
でも、実際に現場へ取材に行き、選手や関係者の皆さんから直接話を聞いたり、試合を見たりしているうちに、野球など他のスポーツの魅力に触れて、どんどん好きになりました。
── 何かきっかけがあったのでしょうか?
寺川さん:よく高校野球の世界では、「野球は9回2アウトからが勝負」と言われますが、それまで私は、「いったい何を言っているんだろう。9回2アウトなんて、もう終わりじゃん!」と思っていたんです。
たしかにプロ野球では、そこまでの場面はないにしても、たとえば、試合展開が後半にガラッと変わってくることはよくあります。
実際にそうした場面に立ち会うと、ものすごく興奮しますし、選手の気持ちの変化を感じて、“話を聞いてみたい”と思ったりします。
── ご自分も水泳選手として戦ってきた経験があるからこそ、そうした場面での選手の気持ちが手に取るようにわかるのでしょうね。そこは、アスリートならではの強みといえますね。
寺川さん:スポーツは結果がすべてと思われがちですが、舞台裏ではいろんなドラマがあるんですよね。
そうしたことも皆さんに知ってもらえるといいなと思いながらお仕事をさせていただいています。
選手のインタビューを通じて、感じたことを自分の言葉で伝えられることが楽しく、やりがいを感じますね。
ただ、生放送なので「20秒」という決められた時間内に、取材で感じたことをコンパクトにまとめてコメントしなくてはいけないのですが、これがなかなか難しくて…。
時間内に伝えきれなかったり、逆に、短かくなりすぎて時間が余ってしまったり。生放送は、想定外が起こるので対応力が問われますが、いまだに慣れないですね。