「不妊治療を続けたら妊娠すると思っていた」。1993年に「大阪パフォーマンスドール」のリーダーとしてデビューし、タレントとして活躍してきた武内由紀子さん。30代後半で今の夫と出会い、結婚したのち、4年間に及ぶ不妊治療を経て、44歳で特別養子縁組を決断しました。

40歳からの不妊治療も「先が見えないツラさ」

── 武内さんが、旦那さんと出会ったのはいつころですか?

 

武内さん:夫とは、30代後半で出会い、結婚を前提につき合いました。「子どもができたら入籍しよう」と話していたんですけれども、なかなか妊娠しないまま私が40歳の誕生日を迎えて、そのタイミングで入籍しました。

 

「特別養子縁組で2人の子どもの母になった」と話す武内由紀子さん

── 当時は、吉本興業のタレントとして多忙な日々を過ごしていたかと思います。仕事と不妊治療の両立はどうされていましたか?

 

武内さん:入籍してすぐに高度不妊治療の専門医に行って治療を始めました。高度不妊治療に入ると、いつ、どのタイミングで妊娠するかわかりません。そのため、舞台の仕事など長期にわたる仕事はいったんやめ、単発または週単位で終わるタレント業かロケなどの仕事を受けてました。

 

養子縁組で家族に迎え入れた武内由紀子さんの長男と長女。ヘルメットを被り、ヒソヒソ話

── 不妊治療はどのくらい続けられたのでしょうか?

 

武内さん:約4年です。今月こそ妊娠しているかも、と期待していたのに生理が来て落ち込んで。それでも諦めずに、治療を続ければ来月こそは妊娠できると思い直し。4年間その繰り返しで、治療を続けてきました。

 

何度やっても妊娠できない焦りや不安、採卵のときの痛みなどもたくさん経験し、体も心も疲れきってしまって。先が見えないなかで治療を続けるのは、とてもツラくて。

 

44歳になったとき、「もうやめよう」と思ったんです。ひと言で言えば「疲れた」。本当は45歳まで続けるつもりだったんですけどね。

「奇跡は信じない。もう先に進みたい」

── その後、特別養子縁組について考えるようになったのですか?

 

武内さん:「もうこれを最後の治療にしよう」。そう思って臨んだ不妊治療が、結局だめでした。

 

病院でお会計を待っているあいだに、ふと、昔友人に言われた「特別養子縁組は?」という言葉が頭に浮かんできたんです。

 

私は思い立ったら早いタイプなので、病院の近くで待っていた夫に直接、「特別養子縁組について考えてみたい」と伝えました。

 

── 旦那さんの反応は?

 

武内さん:特別養子縁組については、夫とは一度も話したことがなかったから、かなり驚いた様子でした。でもひと言「わかりました」と。

 

ただ、夫は私がこの4年間ツラい思いをしていたのもよくわかっていたし「養子縁組の話は、もうちょっとゆっくり休んでから考えたら?治療をやめたら、妊娠できたみたいな話もあるし」と声をかけてくれました。

 

でも私は「奇跡は信じない。もう次に進みたい」と伝えて。そこから特別養子縁組について、必死で調べ始めました。

夫の迷いを断ち切ったひと言

長男と長女をおんぶと抱っこで寝かしつける武内由紀子さん

── 特別養子縁組を考えるにあたって、何から始めましたか?

 

武内さん:まずはネットや本で情報収集し始めました。私は、特別養子縁組のことを全然知らなくて。そもそも特別養子縁組とは何か、養子縁組できる親子の年齢制限、どこの団体に特別養子縁組を依頼するかまで絞り込みました。

 

特別養子縁組をあっせんしてくれる団体には、親の年齢制限があるところも多く、当時44歳だった私が申し込めたのは2団体のみ。すぐにその団体の説明会に申し込みました。

 

── 旦那さんは、養子縁組についてどう考えていたのでしょうか?

 

武内さん:夫は、「いいよ」とは言ったものの、心配もあったようです。もしも特別養子縁組で迎える子どもに先天性の病気があった場合、後悔しないか心配だったようです。

 

「これから先、私が病気にかかり高額な医療費がかかったら、あなたは私と結婚しなければよかったと思う?」と、夫に聞いたんです。夫は即答で「そんなことは思わない」と。「子どももそれと同じだと思うよ」と言ったら、腑に落ちたみたいで。迷いはいっさいなくなったと言ってました。

血がつながっていてもいなくても

── 養子縁組について、武内さんのお母様、旦那さんのご両親の反応は?

 

武内さん:義父は即答で「血がつながっていてもいなくても、家族を作ることは、本当に素晴らしい」と伝えてくれました。

 

私の母と義母は、子育ての大変さがわかっているからこそ「そこまでして子どもを迎える必要があるのかな」と、率直な気持ちを伝えました。夫婦2人で楽しく生きていけばいいんじゃないかと思ったみたいです。

 

でも、私たち夫婦の気持ちを丁寧に伝えたところ、気持ちを受け止めて、応援してくれることになりました。

 

子育てをしていくうえでは、両家の家族との関わりも大切になってきます。特別養子縁組という形で家族を作る私たち夫婦のことを、暖かく受け入れてくれたことは、本当に嬉しく、感謝の気持ちでいっぱいです。

 

── 不妊治療を続けるか、特別養子縁組を考えるか、迷う人もいると思います。

 

武内さん:難しいですよね。正直、すぐに折り合いはつかないと思うんです。もちろん不妊治療をして自分で産めたらいいなって思います。その一方で、特別養子縁組で家族を作ることもできると、知識、情報として知っておくといいかも。それによって、自分たちの家族はどうやって作っていこうっていう話し合いもできると思います。

 

※「特別養子縁組」とは、子どもの福祉の増進を図るために、養子となるお子さんの実親(生みの親)との法的な親子関係を解消し、実の子と同じ親子関係を結ぶ制度。

 

PROFILE 武内由紀子さん

タレント、女優。「大阪パフォーマンスドール」としてデビュー。2013年にパン職人の夫と結婚。特別養子縁組を経て、現在男の子と女の子2人のママ。

 

取材・文/間野由利子 撮影/坂脇卓也