「無料で海外旅行する感じ」の誘い文句で競技の世界へ

盲学校や専門学校時代は教師のサポートもあり、体育の授業などでスポーツを楽しんでいた高田さん。

 

ところが卒業後は、気軽に運動できる環境がありません。全力で走りたくても、一緒に走る伴走者がいないと危険でした。

 

どうしたらいいか、高校時代の体育教師に相談することに。そこで勧められたのが、障がい者が出場する東京都の陸上大会でした。

 

そのとき、パラリンピックを目指して一般のクラブチームに所属する全盲の選手に出会いました。

 

「その選手は私のタイムを知り、“本格的に練習しないでそんなに速いなら、パラリンピックをめざしたら?”と言ってくれました。

 

でも当時、パラリンピックはまだマイナーで、私は存在を知らなかったんです。

 

すると“日本代表になったら無料で海外旅行に行けるんだよ”と説明されて(笑)。

 

“そんな素敵なシステムあるんですか!?海外に行きたいです!”みたいな軽いノリで興味を持ちました。そして社会人になってから、本格的に陸上を始めました」

 

紹介されたクラブチームで知り合ったのが、現在も高田さんのコーチを務める、元オリンピック陸上代表選手の大森盛一さんです。

 

向上心が強く、タイムを伸ばしていく高田さんのやる気を見込み、大森さんはコーチを引き受けることに。それ以来、二人三脚で陸上競技に取り組んでいます。

 

当初、100m走の出場を考えていた2008年の北京、2012年のロンドンでは惜しくも日本代表に選ばれませんでしたが、その後、走り幅跳びに転向。見事にリオと東京では出場を果たしました。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/高田千明さん、ほけんの窓口グループ株式会社