居酒屋の常連客から声をかけられハンバーガー業界へ

店長を務めたアパレル店は5年間で年商が2倍になったものの、会社の事情で藤﨑さんは退職することに。

 

「いずれは109で起業するつもりでした。109での仕事は楽しかったし、44歳で就職活動しても、家族を養うだけのお給料はもらえないと思っていたんです。

 

ただ、生活がかかっているから、すぐに収入を得る必要がありました。そこで、得意な料理を活かし、居酒屋でアルバイトを始めました。

 

すると、4か月ほど経ったときに“あなた、自分でお店を始めたらいいんじゃない?”とお客さまから言われたんです」

 

渋谷109の店長を辞めて居酒屋でアルバイトしていたときの1枚

当時、109への出店希望者が多く、激戦だったため、まずは小さな居酒屋を開くことに。

 

半年後には予約が取れないほどの人気店に。その秘訣は藤﨑さんの細やかな気配りにありました。

 

「お通しは毎日、2種類用意。西京漬けに使う味噌、ポテトサラダの味つけなど、メニューすべてを徹底的にこだわりました。

 

レシピ化して、従業員の誰が作っても同じ味になる工夫もしました。

 

ビールグラスは泡が細かく出る陶器のものに。お客様が心地よく過ごせるよう、細部まで心を尽くしましたね」

 

予約の電話があったときに、初めての人には「店内は狭いですよ」「料理を作るのが遅いですが、大丈夫ですか?」と、事前に店の状況などを知ってもらうようにもしたそう。

 

また、話しかけてほしくない雰囲気の人はそっとする、仲良くなりたそうな人とはおしゃべりを楽しむなど、お客さまごとに接客を変えました。

 

こうした細やかな接客やおいしい料理が評判を呼び、2号店も出店することに。

 

そんな折に転機が訪れます。2017年、藤﨑さんの料理を気に入った常連さんから声をかけられるのです。

 

「商品開発のアドバイザーとして手伝ってほしい」。依頼をしたのはドムドムハンバーガーの親会社・レンブラントホールディングスの専務でした。

 

50歳で初めての企業勤め「制服に袖を通し、ワクワクするも覚えることもたくさんあった毎日」

「そのとき思いついたのは、“厚焼き玉子”を使ったバーガーです。ドムドムハンバーガーは日本でいちばん古いハンバーガーチェーンなんですね。だから、日本人が好きな食材を使いたかった。

 

ただ、厚焼き玉子を全国的に流通させるには、コストもかかるし味も落ちます。だからおいしい卵焼きを“店舗で簡単に作れる方法”を、ひたすら研究しました。

 

私は目の前にあることだけに集中するタイプ。“売れなかったらどうしよう”など、余計なことは考えません。そのときも、おいしいハンバーガー作りだけに夢中でした」

 

結果、厚焼き玉子ハンバーガーは大好評に。これがきっかけとなり、低迷していたドムドムハンバーガー再生のために、“正社員として本腰を入れてみないか”と誘われた藤﨑さん。

 

経営していた居酒屋をスタッフに任せ、ハンバーガーの道に挑みます。そして正社員となって9か月後、代表取締役社長へと大抜擢されることになるのです。

 

「これまで出世したいとか、成功したいと考えたことがないんです。

 

いまの自分があるのは、目の前のことをコツコツと丁寧に取り組んできた結果。これからも、同じように誠実に仕事をしていく日常が大切だと思っています」


取材・文/齋田多恵 写真/上岡美緒 画像提供/ドムドムハンバーガー