ボロボロとこぼれ落ちていく人がいる…
今作のオリジナルとして、家を失った女性役を務めるのが板谷由夏さん(47)で、柄本さんもひと癖あるホームレスを演じています。
この役柄と同じく柄本さんは、実際の社会のあり方や自分自身にも疑問を持っています。
「街の開発もそうだけど、何でも右肩上がりに成長しなくてはいけないのかと思いますね。
その間にボロボロとこぼれ落ちていく人がいる…。
だから、この言葉はすごく嫌いなんだけど、私が芝居で“食えるようになった”ことが、いいことなのか。
結局、50年近くやってきたけど、いいのかなと思うんですよ」
いつかは重みや苦しみになるかも
事件の被害者も劇団員を辞めた後は、スーパーの販売員など職を転々としたうえ、ホームレスになったようです。
柄本さんは、若い人が成功や名声を夢見たり、志したりすることは悪いことではないと言います。
「でもそれは、私が若かったころと同じで、“青春の誤解”です。
それをずっと続けていれば、いつかは重荷や苦しみになるかもしれない。
だから、芝居は人を幸せにはしないんですよ」
欲望とは無縁でいられない
とつとつと語る柄本さんですが、熱がこもってきました。
「では、なぜそれを続けているかと言えば、何か楽しいことがあるからでしょうね。
人は生きていれば、欲望とは無縁ではいられない。“やったぜ!”ということを、もう一度したくなる。
そういう欲と、どう帳尻を合わせていくかが重要だと思います」
矛盾を感じながらの柄本さんの演技は、これからも続きそうです。
PROFILE 柄本明さん
1948年東京都生まれ。俳優。’76 年「劇団東京乾電池」を結成。’98年、映画『カンゾー先生』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞受賞。2019年には旭日小綬章を受章。テレビ、舞台、映画など出演多数。
映画『夜明けまでバス停で』
キャスト:板谷由夏、大西礼芳 、三浦貴大、柄本明、他
監督:高橋伴明 脚本:梶原阿貴 配給:渋谷プロダクション
10月8日(土)より新宿K’s Cinema、池袋シネマ・ロサ他 全国順次公開
取材・文・撮影/CHANTO WEB NEWS