ドラマ、舞台、映画、CMなどで独特の存在感を放っている柄本明さん(73)。誰もが知る活躍ぶりですが、本人は釈然としないところがあるようです。実際に起こった事件がモチーフになった映画で、その気持ちはさらに深まっているように…。
すっかりキレイになって…
「まあ、しようがないですよね…」
自身が主宰する「劇団東京乾電池」の稽古場や自宅がある東京・世田谷区の下北沢駅周辺の再開発について、そう淡々と語る柄本さん。
「昔は1階でお店をやっている人が、2階に住んでいるような建物が並んでいる街でしたけど、すっかりキレイになって、古着屋さんばかりになってね…」
劇団員やバンドマンが集まるアングラな街だったシモキタの空気感が、なくなっていくことに寂しさを感じているようです。
なぜ、そんな話になったかと言えば、柄本さんも出演している映画『夜明けまでバス停で』(高橋伴明監督)のモチーフとなった事件は、下北沢から遠くない場所で起きて、被害にあったホームレスの女性は、元劇団員だったからです。
劇団員がたくさんいるので他人事では…
2年前の11月、下北沢から2キロほどの渋谷区幡ヶ谷のバス停のベンチに座っていた住所不定の女性(当時64)が、近所の男(当時46)に石の入ったポリ袋で殴られ死亡。
逮捕された男は、「路上生活者にどいてもらいたかった」「金を渡して移動してもらおうとしたが断られた」と供述。
男は起訴されて、今年5月に初公判を控えていましたが、保釈中の4月にみずから命を絶ってしまいました。
「うちにも劇団員はたくさんいますから、他人事ではありません。
劇団員はサラリーマンではないですから、仕事がなければ収入はまったくありません。
だから、ほかに食い扶持を探さなくてはいけない、非正規雇用者ばかり。
この女性のように社会の片隅に追いやられた人を、周囲の人なり行政がフォローできなかったのかと思いますね」