『かもめ食堂』『めがね』などで知られる荻上直子監督がオリジナル脚本を手掛ける映画『川っぺりムコリッタ』が9月16日から公開されました。ささやかな幸せがテーマの作品。監督のささやかな幸せは双子の娘さんとの関わりにあるようです。

カフカほど才能がないから幸せを経験しようと決めた

── 荻上監督にとってささやかな幸せとは何でしょうか。

 

荻上監督:
毎日、ビール開ける瞬間です。

 

── とても共感します(笑)。しかし、監督はかつて「ものすごい映画が作れるならささやかな幸せはいらない」と豪語されていたそうですが。

 

荻上監督:
あー、確かにそうですね。カフカがそうやって、自分が芸術家として生きていくのだから幸せに生きてはいけないんじゃないかといって、婚約者と結婚しなかったりしているんですよね、確か。

 

だから、そんなの読んだりして、幸せって作り出すものにものすごく影響を与えるということだと思うんです。結婚とかそういうことを自分もしてはいけない、そう思っていた時期があったんです。

 

でもふと、何本も映画を作ってきて、客観視したら、私、そこまで才能ないから幸せを得ても大丈夫だと思ったんですよ。

 

カフカみたいな素晴らしい人がそういうならそうだけれど、自分にはそこまでの才能はないから大丈夫だ、結婚してもいいし、事実婚で結婚はしてませんけど、子どもがいたりして、子どもから受ける幸せを経験してもいいのかなと思ったんです。

 

ささやかな幸せについて話す荻上監督

── 監督は40歳で双子をご出産され、3か月後から文化庁の新進芸術家派遣制度で一年間アメリカに留学されたとのこと。すごい決断力だと思いますが、どうやって仕事と育児を両立されているのでしょう。

 

荻上監督:
そのときは仕事はしてませんでした。

 

アメリカでは、映画を観たり、舞台やオペラを観たり、それが肥やしになるというプログラムなんで、遊ぶというか、勉強していたと言えばいいでしょうか(笑)。

 

── 双子を連れて映画を観るのも大変でしょうが。

 

荻上監督:
夫も産休を取り、一緒に行ったので、夫が子どもたちを見てくれていて、彼も彼で好きなことをやっていました。