「そんなに目の周りを黒くしなくても…」の真意
その後に樹木さんは「だからね、最後に意見を言ってもいいですか?」といっそう優しい声で続けてくれました。
撮影時、目元を強調したメイクをしていた私に、「お化粧。みんなと同じにしないで!もえさんもね、そんなに目の周りを黒くしなくても可愛いんだから」と。
「モデルさんだからいきなり変えるわけにはいかないのかしら」と私を気遣いながらも、「あなたはもっといろんな表情があったはず。雑誌の表紙になるような人たちが、自分ならではの方向を目指していかないと、世の女の人は変わらない」と言ってくださったのです。
「今日会った意味がある」に感銘
感激していた私に、「これを伝えられたことで、今日あなたが私と会った意味がある」と樹木さんは言いました。
その日、メイクや自分らしさのお話だけでなく、本質的な意味で樹木さんから教えていただいたことは十分すぎるほどでしたが、「意味」という言葉は、私の心に深く響きました。
樹木さんをメディアで拝見していると、どんな時、どんな場所や境遇でも、相手や観客へ、何かを残そう、届けようとしているように感じていたからです。
以来、私もどんな仕事やささやかな日常の巡り合わせにも、自分なりの意味をもっと見つけていきたいと思うようになりました。
それが樹木さんとのたった一度の出会いから教わった大きなことです。
樹木希林さんのお葬式のご挨拶で内田也哉子さんが「いつか母に言われた言葉」として紹介した言葉が忘れられません。
「おごらず、人と比べず、面白がって平気に生きればいい。」
「面白がって平気に」というところがなんとも樹木さんらしい気もしますし、心の持ちようの大切さを教えられる、味わい深い言葉だと思います。
これからもずっと、樹木さんから教えていただいた言葉は私の中で生き続けることでしょう。
樹木希林さんへ、心から感謝を込めて。
文/押切もえ 写真/坂脇卓也