俳優として活躍の幅を広げている市川由衣さん。プライベートでは2人のお子さんの母親でもあります。目立たないタイプだったという学生時代のお話から、芸能界デビュー後の葛藤について伺いました。

 

市川由衣

「あの由衣ちゃんが!?」スカウトをきっかけに芸能界デビュー

── 14歳から芸能界でお仕事をされていますね。

 

市川さん:原宿で姉と買い物をしていたときにスカウトされたのがきっかけです。芸能界にはもともと興味があって、オーディションを受けて小学生の頃から読者モデルをしていました。

 

ものすごくテレビっ子で、ドラマを見るのが大好きだったのでお芝居をしてみたいという思いがあって。スカウトされたのが役者の事務所で、レッスンもできるということだったので、チャレンジしたいと思ってお引き受けしました。

 

そこから最初はグラビアでお仕事が決まりました。いろいろな場所に行けたのは楽しかったです。初めて飛行機に乗って、海外に行ったのも仕事。でも当時は幼くて何もわからなかったので、仕事は言われるがまましていました。

 

── 周りの方からの反応はいかがでしたか。

 

市川さん:学校ではすごく恥ずかしがり屋で人見知りなので、「あの由衣ちゃんが芸能界に入ったの?」という感じだったと思います。まったく目立たないタイプでした。学芸会とか、何か発表をするときに人前に出るのは好きだったんですけど、人と話すのは苦手でしたね。

 

── どんな学生生活でしたか。

 

市川さん:集団生活が苦手で、一匹狼みたいな感じでした。仲のいい子はいたんですが、女子同士でグループを作って一緒にトイレに行くのとかが苦痛で。「そんなのどうでも良くない?」と思っていましたね。

 

市川由衣
芸歴は22年になる市川さん

── 大人びていたんですね。

 

市川さん:あまり学校に馴染めていなかったので、仕事に救われた部分はありました。学校はすごく狭い社会ですけど、仕事をしてみてから世界が広がって。久しぶりに学校に行くと、楽しく過ごせることもありました。

 

私がこうだったので、一概に「学生だから絶対に学校に行きなさい」とは強く言えないのですが、今振り返ってみると、そのときにしか経験できないこともあるので自分の子どもには学生生活を存分に楽しんでほしいと思ってしまいます。

毎日叱られていた10代

── 芸歴は20年を超えますが、仕事の面で葛藤することはありましたか。

 

市川さん:しょっちゅうあります。もちろん今もそうです。若い頃は、毎日叱られていました。スタッフにもマネージャーさんにも、監督にも。演技のこともそうですし、現場での態度も含めて、もう何から何まで(笑)。

 

当時の業界が今より厳しかったのもあるかと思いますが、チャンスをいただけても、自分の実力がついていっていないのもあって。周りの方にだいぶ鍛えていただきました。

 

── まさに仕事に駆け抜けた青春時代だったんですね。

 

市川さん:プライベートはほとんどなかったですね。10代の頃は3日間休みがあったら不安になっていました。今思えば、10代ならではの経験をいろいろしたらよかったなと思いますけど、仕事に一生懸命だったからこそ、今があると思っています。

 

市川由衣
背中にもたれかかるお子さんに嬉しそうな表情の市川さん

仕事に責任を持てるように

── 芸能界に入ってご自身が変わったことは何ですか。

 

市川さん:人見知りなんて言っていられないですし、現場でのコミュニケーションがお芝居にも響いてくるので、人との関わり方は仕事をするうえで変わったと思います。

 

あとは20代後半くらいから、マネージャーさんと話し合いをして仕事を決めることができるようになったので、そこからモチベーションも大きく変わりました。

 

それまでは若かったこともあって、すでに決まった仕事をする形だったんです。自分で判断できることが増えて、引き受けるからには責任を持たなくてはという思いが強くなりました。

 

── 結婚、出産を経て、仕事にはどのような変化がありましたか。

 

市川さん:お母さん役のオファーが増えたのですが、実際に母親になってみると、独身のときにイメージしていた、母親ってどんな生活をしているんだろう?という空白の部分を埋めることができたので演じやすくはなりましたね。それに涙もろくなって、いろんなことに心動かされる瞬間が増えました。

 

市川由衣
艶やかな着物姿で2人のお子さんを見守る市川さん

── 人によっては役を引きずってしまう方もいると聞きます。

 

市川さん:独身のときは、家に帰っても役を引きずってしまうということもありましたけど、子どもが産まれてからは切り替えないとやっていけないので、オンオフの切り替えははっきりできます。もし役のままでいたら家族から「どうしたの!?」と言われてしまう(笑)。

 

人間らしい生活といいますか、子どもたちがいることで生活のリズムというものができました。様々な行事によって四季を感じることができるなど、家族ができて何より心が健やかになった気がします。

 

── これからの目標について教えてください。

 

市川さん:母親になりましたが、もちろん母親以外の役もしていきたいですし、なるべく固定したイメージではなく柔軟にいろんな役に挑戦していきたいと思います。最近ですと、昼ドラのドロドロしたストーリーのドラマに出演したときはすごく楽しかったです。実生活と全く違う経験を積めるのはこの仕事ならではだと思います。

 

お仕事をいただいて、前なら自分がしたいと思ったらすぐ返事ができましたけど、今は自分ひとりでは決められません。まずいただいたら、家族会議(笑)。でも俳優としての私も応援してくれているので有難いです。これからもひとつひとつのお仕事を大切に、真摯に向き合っていきたいです。

 

PROFILE 市川由衣さん

市川由衣

1986年生まれ。2001年女優デビュー。2015年結婚、2016年第1子男児、2020年第2子男児を出産。FODにて出演ドラマ『昼上がりのオンナたち』が配信中。現在、「Artistspoken」内ポッドキャスト番組『I.M.A』にて、金曜パーソナリティーをつとめている。Instagramでも情報発信中。

取材・文/内橋明日香 写真提供/市川由衣