『いつかティファニーで朝食を』『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』などヒット作を数多く手がける漫画家・マキヒロチさん。下準備を怠らず、丁寧で細やかな情報が盛り込まれた作品を描き続ける姿勢の裏には、下積み時代に編集者から言われた「ある言葉」がありました。

「体験したくなる」描写にこだわり徹底取材

── 『いつかティファニーで朝食を』では食材一つひとつの食感、『おひとりさまホテル』ではホテルの歴史やシーツの触り心地まで…といった具合に、マキさんの作品には、細やかで事実に忠実な情報もふんだんに盛り込まれていますよね。思わず行きたくなってしまいます。

 

マキさん:
ありがとうございます。作品は基本的に実際に出向いて、取材してきたことを元に描いているんです。写真撮影も、いろんな角度からかなりたくさん撮ってくるんですよ。

 

連載中の『おひとりさまホテル』の開始は、雑誌の企画でわたし自身がホテルでワーケーションをしてみたことがきっかけになりました。国立競技場の目の前にある素敵なホテルだったんですが、当時やはりコロナの影響で「マキさん、何度でも好きなだけ泊まりにいらしてください」と言っていただけるような空室状況だったんです。

 

そこで、何かホテルが盛り上がるような仕掛けができないか…と考えて、『おひとりさま』というメディアを運営されているマロさんにお声がけし、ご一緒することになりました。なので、少しでも「行ってみたい」と思っていただけることはうれしいです。

 

現在連載中の『おひとりさまホテル』より ©マキヒロチ/新潮社
現在連載中の『おひとりさまホテル』より ©マキヒロチ/新潮社

マキさん:
ストーリーのなかで、主要キャラの4人は「それぞれホテルの趣味・趣向が違う」という設定にしているんです。ちょっとお高めのラグジュアリー系のホテルが好きな子、アートホテルが好きな男性、古い温泉旅館やクラシックなホテルが好きな韓国出身の女の子、そしてマロさんをモデルにした、安くておしゃれなホテルに次々と泊まって暮らしている子…。それぞれ趣の違った、ホテルの楽しみ方をこれから紹介していく予定です。

 

まだ連載2話目(取材当時)ですが、どこも実際にわたしが泊まってみて本当におすすめできるホテルを描きたいと思っています。


── とても丁寧な取材を重ねられている様子が作品からもわかりますが、許可取りも含めて大変な作業ではありませんか?

 

マキさん:
『いつかティファニーで朝食を』の地方取材では、2日間しか取材日を確保できていないなかで、1日目にすべてのお店で断られてしまって「明日どうしよう」と、途方に暮れてしまいそうなこともありましたね。

 

それでもやっぱり、実際に行って食べたり泊まったりしてみないと「本当の良さ」ってなかなか伝えられないと思いますし、「おすすめしたい」と思えないお店や施設を描くことは難しいので、取材に出向くということは大切にしています。

 

『いつかティファニーで朝食を』より ©マキヒロチ/新潮社
『いつかティファニーで朝食を』より ©マキヒロチ/新潮社

マキさん:
スケートボードを題材にした『SKETCHY』を描いていたときは、実際にスケボーを週3〜4回練習して習得しようと頑張っていましたし、『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』を描いていたときは、毎回それぞれの街に5〜6回は出向いてぶらぶらと歩いていました。そのぐらいしないと、やっぱりわたしは描けないんですよね。