就職よりも「スナックの経営」を選んだ彼女の野望

せつこママから継いでほしいと言われた坂根さんは、改めてスナックの魅力について考えるようになりました。

 

「今はSNSですぐに世界中とつながれます。一方でスナックは、カウンターに10席ほどの小さな空間。実際に足を運ばないとたどりつけません。

 

しかもお客さんたちは友達でも家族でもありません。考え方も経歴も異なる人ばかり。でも、お店でしかつながっていない人同士だからこそ、日常では聞けないような深くて面白い話ができます。

 

悩みを抱えていると、自分にはない視点で意見をもらえたり、ただ一緒に飲んで明るい気持ちになったりすることも」

 

SNSで自分と似たタイプの人と気軽に出会える若い世代にとって、スナックのように、住む世界も価値観も異なる人と知り合う場所は、新鮮だと感じたそう。

 

「こうしたコミュニティは若い人、とくに女性に受け入れられる種を見出しました。実際、一緒にアルバイトしていた後輩たちも、スナックに魅了されていましたから。

 

女性はママに話を聞いてもらうことで、スナックを職場でもなく、家庭でもない、新たな居心地のいい空間にできるのではないかと思ったんです」

 

これまで働く男性が主なターゲットだったスナックは、実は女性や若者にも需要があるのではないかと、新しい可能性に気づいた坂根さん。

 

今のままではせつこママの引退にともない、大好きだった「すなっく・せつこ」は閉店してしまいます。

 

「私にとって大切な場所であるスナックを存続させたい思いが強くなりました。そして、これまでの常連さんはもちろん、若い世代にも受け入れてもらえるような新しい形にしていきたいとも。

 

せつこママが渡してくれようとしているバトンは、私が受け取るべきだと感じるようになりました」

 

この考えに行きついたとき、坂根さんはせつこママの提案を受け入れ、スナックを継ごうと決めたのでした。

取材・文/齋田多恵 写真/富本真之