最初はフォローするスタッフが疲弊することも

── そこから2016年に一般社団法人ローランズプラスを設立され、原宿に就労継続支援A型事業所として、フラワーショップを開設されたんですね。雇用する上でご苦労されたことはありますか。

 

福寿さん:
当時は7割ぐらいが障がい当事者だったのですが、ちょっと揉めごととかもあったんですね。何でも優しくすることがいいと思って手伝いすぎてしまって、特別扱いみたいになると、障がい当事者が、仕事は頑張らなくても良いものだと思い、それが態度に出てしまうようになりました。

 

また、障がいをサポートするスタッフにも仕事のしわ寄せがきて、疲弊させてしまいました。

カフェの様子

私たちが配慮だと思って障がい当事者の仕事への責任感を奪ってしまっていたのだと気づき、もっと任せようと思いました。そして、万が一のときにフォローできる仕組みをどう組むか、という環境づくりを中心に行うように変えることで、上手く回り始めました。

 

精神障がいの方は一般的に1年働き続ける割合が50%弱と言われるのですが、ローランズでは1年以上継続して働くことができているスタッフが9割ぐらいいます。

 

続いているコツはそれぞれの工程のプロフェッショナルをつくって、接客が得意な人は接客、配達が得意な人は配達、と活躍する場所を作っていることで、すべてができなくても良いという工夫があるかなと思います。

 

上手くいくとモチベーションも上がって、人間関係も安定していくと思っています。

スタッフと打ち合わせる様子

花が咲く姿って元気をもらえるじゃないですか、それと同じで、そういう前向きに働く状態の人がたくさんいると、明るく前向きな気持ちが職場全体に広がって、良い影響が出るので、会社の人事評価項目のなかには、「毎日ご機嫌であること」というものも入れています。

中小企業と一緒に障がい者雇用を開始

── そして、19年には東京圏国家戦略特区として、障がい者を中小企業と一緒に雇用する「ウィズダイバーシティ有限責任事業組合」を全国で初めて設立されたんですね。

 

福寿さん:
これは、2017年のころ、国家戦略特区担当の方から連絡をいただいて、「中小企業の障害者雇用を前進させることができる制度があるが、事例づくりに取り組むことを検討してもらえないか」とお話をいただいたんですね。

 

そこから勉強をしました。全国に10か所ある国家戦略特区のなかに、障がい者の雇用を促進する法律特例があるんです。

 

大企業は自分たちで特例子会社をつくって障がい者雇用ができますが、中小企業には難しい面もありますよね。そこで、今はローランズを含む7社が出資して有限責任事業組合をつくり、13人分の障がい者雇用を生み出しています。企業は共同雇用した人数を自社雇用として算定できるんです。

店頭で花を持つ福寿さん

たとえば、企業は障がい当事者の人件費を法定雇用以上の障がい者雇用ができているローランズのような企業や福祉団体に対して、観葉植物のレンタルや事務代行などの仕事を確保する役割を担って発注します。

 

それをもとに福祉団体では、障がい当事者を新たに雇用しながら、サービスを提供します。障がい者雇用への取り組みが0だった企業が何かアクションを起こしていけるように、役割分担を行いながら、障がい者を共同で雇用していく取り組みです。

 

まだ国家戦略特区内でしかできず、全国でも1例のみですが、2023年以降にエリア要件が緩和される見込みが立っていますので、今後は全国に広げていきたいですね。しっかりとローランズでモデルケースをつくりたいと思います。

取材・文・撮影/天野佳代子