原宿駅から徒歩10分程度の住宅地にあるフラワーショップ兼カフェの「ローランズ」。カフェでリゾットを注文すると、食べられる花びらが飾られています。

 

都内5か所に拠点がある普通のフラワーショップに見えますが、従業員65人のうち7割が障がい当事者です。うち3割は全国で初めて国家戦略特区を活用し、取引先の中小企業と一緒に雇用する仕組みを取っているそう。

 

進化を続ける同社の福寿満希社長は「誰も排除されず、誰もが花咲く社会を目指す」と話します。

福寿さん

通勤途中、花に癒やされて起業

── どうしてフラワーショップを始めようと思われたのですか。

 

福寿さん:
大学を出て2011年にスポーツマネジメントの会社に就職しました。フラワーショップの前で花を見て癒やされて。花から心にアプローチできないかなと思うようになりました。まずは週末だけ花のアレンジメントをするなど、週末起業から始めました。

 

2013年に仕事を辞めて、自宅の一角で花屋を起業しました。ご注文いただいてから、花を仕入れて、アレンジメント商品を制作するという形ですね。

 

── 就職して2年で起業とは、けっこう勇気がいると思うのですが。

 

福寿さん:
私はやりたいと思ったことは、やりたいと思った瞬間が人生で一番若いので、挑戦したいと思うんです。

「久しぶりの給料です」と涙を流した障がい当事者を見て決意

── 障がい者雇用をしようと思ったのはどうしてですか。

 

福寿さん:
大学で教員免許取得のために特別支援学校を訪れたとき、五体満足である状態の私たちより、障がいと向き合う子どもたちのほうがずっと幸せそうに見えたんですね。

 

それがなんだろうって思ったら、人と比べないで、今自分が持っているものを精一杯大切にして日々を過ごしているんだと気づけて、すごく感銘を受けたんです。

 

私自身、硬式テニスのスポーツ推薦で大学に進学しましたが、周囲の大学まで競技を続けている人は全国、世界レベルの強豪だらけで、今まで自分の強みだと思っていたものがゼロになったんです。劣等感を感じて毎日が苦しいと感じていた自分にとって気づきとなる出会いでした。

 

でも、そんな幸せそうな子どもたちが、働く場所はほとんどないと聞いて、衝撃だったんです。

花を選ぶ福寿さんとスタッフ

それを思い出したのが、2015年に花の講師として福祉作業所を訪れ、ある男性と出会ったときです。

 

彼は、企業で中間管理職だったけれど、ストレスで統合失調症になりました。

 

再就職活動は障がいと向き合っているとなかなか見つからないんですね。3年就職活動をしているとおっしゃっていました。器用な方だったので、アルバイトとして採用して、店で働いてもらったんです。

 

最初の給料を手渡したとき、涙ぐまれて「ありがとうございます。久しぶりの給料です」って握りしめて喜ばれたんですね。

 

それを見て、人を雇用するってすごく大変で苦しいってそれまで思っていたけれど、自分自身が救われた感覚になったんです。

 

そのとき、ああ、起業家って周りにたくさんいるけれど、こんなふうに就労困難な状態にある人の雇用を作っていくことが、私だからこそできる役割なんじゃないかって感じたんです。