コンセプトは「アートだけれども食べてもおいしい」

かつお節で毛並み、ソーセージで口ばしや足を表現した「キーウィ」

おにぎりアートは、白米にふりかけやケチャップを混ぜて色をつけたり、ゴマやおかか、おぼろ昆布をまぶしたり、美味しく食べられるものを使っているのだそう。キュウリの皮と内側を使い分けて表現した「河童」、尼頭巾を千枚漬けであしらった「北条政子」、毛並みにかつお節を使った「キーウィ」などなど。絶妙なモチーフはもちろん、どんな具材を使っているのか予想するのも楽しい作品ばかりです。

 

「何よりも、ご飯と具材で再現できそうな色と形を持ち合わせているモチーフから選ぶようにしています。季節柄や流行りの中から探してみることも。個人的にはインパクトや可愛らしさのあるものが好きですね。

 

具材は『ご飯と一緒に食べておいしいもの』から、ご飯に貼りつくもの、垂れないもの、滑らないものなどを条件に選んでいきます。親戚が米の生産者なので、お米には地元産の『伊賀米』を使っています。甘みが強くて冷めてもおいしいですし、粘り気があるのでおにぎりにはぴったりなんです」

白ゴマのつぶらな瞳がかわいい「パンダ」

見た目だけではなく、味も重視した「アートだけれども食べてもおいしい」がおにぎりアートのコンセプト。おにぎりの表面だけでなく、中にもしっかり具材が入っているのだとか。作品が完成した後はおいしくいただくそうです。

 

「おにぎりアートは見て楽しんだ後に食べてしまえるという、もう一つの楽しみ方があること、また『おにぎり』という和の食材を堪能できることが魅力ではないかなと思っています」

イチオシの作品は「河童」に「メンフクロウ」…。

 

キュウリと寿司飯だけで作られた「河童」

SNSにアップするたびに話題を呼ぶおにぎり劇場さんのおにぎりアートのなかで、特にお気に入りの作品をいくつかピックアップしていただきました。

 

一つ目は「河童」。材料は寿司飯とキュウリのみ。スライサーで薄くカットしたキュウリで寿司飯を包み、くちばしやお皿、顔の表情もすべて一本のキュウリから作られています。「キュウリの皮を使って試しに何となく作ってみたら、10分ほどでぬめっとした河童が出来上がったのでかなり好きな作品です」とおにぎり劇場さん。SNSでも〈河童のじっとり感が素晴らしい〉〈見た目も中身も完全に河童〉と好評でした。

小首をかしげる様子まで繊細に表現した「メンフクロウ」

二つ目は「メンフクロウ」。おにぎりアートの中でも「数少ない全身を形にした作品」といい、毛並みはかつお節マヨネーズとかつお節、鼻筋や口ばしはオーロラソース、目は黒ゴマペーストと白ゴマを使い、つまようじで細かく仕上げています。「足(ハム)と枝(きゃらぶき)も違和感なく再現できたのでお気に入り」だそう。SNSでは「可愛すぎて食べられない…」との声が多く寄せられました。

陶器の艶っぽさも再現した「信楽焼たぬき」

三つ目は「信楽焼たぬき」。丸くカットしたおあげで編み笠を表現し、とっくりや笠の紐など細かい部分まで作りこまれています。表情もとてもキュートで、おにぎり劇場さんも「練りごまのツヤ感が陶器っぽく、寿司揚げが編み笠にぴったりで全体的にうまくいきました」と太鼓判を押す出来栄えです。

「ニンゲンに心を許さない野良猫集団『やさぐれ会』を作りました」と投稿されたおにぎり

これまで一番話題になったのは「野良猫の集会」をモチーフにしたおにぎり。毛並みも表情も違う5匹の全身ミニ猫おにぎりがお皿に並び、愛猫家たちから22万件以上の「いいね」が寄せられました。

チョコレートとシュー生地の質感がリアルな「エクレア」

保護猫活動に関心を持ったのが制作のきっかけだそうで、野良猫への優しいまなざしが感じられるアート。最近ではチョコレートを味噌だれ、シュー生地をかつお節で表現した「エクレア」のおにぎりも話題を呼び、「皆さんをOH!と驚かせるような作品づくりを日々模索しています」と語ります。

おにぎりアートは「笑顔を生み出すもの」

昨年12月には初の単行本『OH!ざわつくおにぎり』(小学館)を発売。SNSで公表していないものを含む、約140種類のおにぎりアートを紹介しています。YouTubeのアカウントでもおにぎりの作り方を公開するなど、愉快で可愛らしいおにぎりアートを世の中に広めています。おにぎり劇場さんにとって、おにぎりアートとはどのような存在なのでしょうか?

 

「おにぎりアートは笑顔を生み出すもの。腹ペコも味覚も満たしてくれて自然と笑顔になります。おにぎりアートを作ることで、まず作ろうとするモチーフに向き合い、それを形にするという挑戦、自分との戦いがあります。それを乗り越え、完成した時の喜びと安堵感、その後の皆さんの反応を想像して吉と出るか凶と出るか、などと思いに耽るのも楽しいですね。

 

おにぎりを世に出すと、想定外のたくさんの方からメッセージを受け取ったり、海外へも届いたりします。メッセージからクスッとしていただけていることがわかると、私も嬉しくなります。おにぎりアートは私自身もおにぎりを観てくださった方にも、おにぎりを通して笑顔を生み出してくれるものかなと思っています」

取材・文/荘司結有 写真提供/おにぎり劇場さん