海外で暮らすことで、家族のきずなが深まった

駐在先で子育てをしていると、家族のきずなが深まり、団結力が深まったといいます。これには、駐在した国ならではの事情がありました。

 

「駐在先では、どんなささいなことでも情報共有する必要がありました。というのも、安全な日本と違い、治安情勢が厳しい国ではいつ何があるかわからないからです。

 

たとえば、学校の帰りに遊びに行ったら、その間に暴動が起き、帰宅できないということになりかねません。そのため、お互いの予定をわかっておく必要があったんです」

 

外出すると伝える場合、万が一の場合に備えて一緒に行くのはどんな関係の人で、何をするのか、目的地はどこか、など具体的に伝えなくてはなりません。

 

そのため、自然と個人的なことにも踏みこむことになりました。日本にいれば、わざわざ家族に話さないであろう、娘たちの友人関係についても、伊藤さんはすべて把握していました。

 

「日本にいれば一緒に住んでいても、家族の状況がわからないことも少なくないと思います。でも、駐在先では私自身も、その日の体調など家族に全部話していましたね。おかげで親子同士の理解が深まりました」

 

また、日本と違って駐在した国はどこも「人は人、自分は自分」の意識が強かったそう。

 

子どもたちも他人と自分を比べるようなことはなく、その分、自分が興味のあることに集中できた点でも恵まれていました。

 

「帰国してからも、他人が持っているからといって、携帯電話やゲームを欲しがることはありませんでした。娘はふたりとも周囲に振り回されず、自分の気持ちを大切にする子に育ったと思います」

駐在生活で苦労した娘たちが明かした将来への展望とは?

物心ついた頃から、さまざまな国を転々としながら育った子どもたち。日本では経験することのない苦労もあったかもしれません。

 

伊藤さんは「駐在先での経験が、娘たちにとって嫌な思い出になっていたら申し訳ない」と考えていました。

 

ところが、伊藤さんの心配とは裏腹に、娘たちは「育ててくれた国に恩返しをしたい」思いを抱き、進路を決めたといいます。

 

「私たちが駐在した国の子どもたちの多くは、過酷な環境で育っています。たとえばケニアでは、路上で物売りをしている子どもたちをよく目にしました。

 

病気になっても医療は受けられず、そのまま亡くなるケースもあると聞きました。娘たちは、自分たちと同世代の子どもたちの厳しい状況を目の当たりにして、衝撃を受けたようです。

 

自分たちも力になりたいと、長女は医師に、次女は大学院で国際政治学を学んでいます。これまでの経験を大切にして、成長している娘たちを尊敬しています」

 

※上記は、伊藤美穂さん個人の経験談・感想です。

取材・文/齋田多恵 写真提供/伊藤美穂さん