駐在生活で見つけた「私ができること」

田中さんが親しくなった人のなかには、紛争の影響で親戚や家族を亡くした人も。

 

それでも、パレスチナとの信頼関係を少しでも解決させようと努力を重ねる人がたくさんいました。

 

「彼らは“攻撃し合うだけでは、憎しみしか生まれない。絶対的な解決方法はないかもしれないが、人が理不尽に亡くなる状況は変えていくべきだ”と強い思いを抱き、平和活動に取り組んでいました。その姿に感銘を受けましたね」

 

こうしたなか、イスラエルとパレスチナの共存を目指す人から、両地域の学生を日本に連れていき、交流させるボランティアをしてほしいと相談がありました。

田中さんが半年暮らしたキブツは、周囲の環境との共存を目指していた

「今のイスラエル人とパレスチナ人は分断され、交流がほぼ断たれた状況です。お互いへの理解を深めるきっかけがありません。

 

でも日本はイスラエル、パレスチナともに歴史的な関わりがほとんどありません。

 

どちらからも反発されないため、来日さえしてくれればイスラエル人とパレスチナ人が、安全な環境で接することができるんです。この活動は日本だからこそできることだと思いました」

 

現在、田中さんは毎年夏にイスラエル人、パレスチナ人の若者を日本に迎え、彼らと同世代の日本人とともに「里山のくらし」を体験させる活動に関わっています。

 

文化も価値観も異なる地域の若者が、共通の経験をすることで、おたがいへの理解を深め、距離を縮められるのではないかと考えています。

 

「一般人の私たちにできることは、とても小さなことです。でも、続けることで何かが変わっていくと信じています。

 

夫の駐在がなければ、イスラエルはまったく関わりがありませんでした。今は、少しでもイスラエルとパレスチナの共存を目指す人たちの力になりたいです」

※上記は、田中さん個人の経験談・感想です。

文/齋田多恵 写真提供/田中恵子さん