イスラエルへの赴任で人生観が一変

暮らす人たちも個性的で魅力的。まわりと歩調を合わせがちな日本とは異なり、考え方や価値観、政治や宗教のとらえ方も人それぞれでした。

 

しかも、自分がどう生きたいか、何を軸にして生きたいかが重視されていました。人生を自由に選択するイスラエル人の姿が、田中さんの目にはとても新鮮に映りました。

 

「家族と考え方や宗教観が異なると感じたら、家族から離れ、自分なりの生き方を選ぶ人もいました。

 

さまざまな立場や姿勢の人たちが、自分の信念に忠実に生きているのが興味深かったです。奥深いイスラエルにすっかり魅了されました」

共同生活を経験して世界で起きている課題を思い知る

イスラエルで興味を抱いたのが「キブツ」という集団コミュニティです。キブツとは、20世紀初め頃イスラエルに生まれた農業共同体のこと。

 

イスラエル国内で約250ほどのキブツがあるといわれ、住民が100人程度のところから2000人と大規模なところも。

 

農業を主体とし、そこで暮らす人は皆平等で、財産を共有しています。当時は、住む場所や食事もキブツが負担し、食堂での皿洗いなど、運営に必要な役割が当番制で回ってきます。

田中さんが半年間暮らしたキブツの寮

「たくさんのキブツがありますが、それぞれの思想や価値観にのっとった生活をしています。

 

私が出会ったキブツは砂漠にあり、周囲の環境に配慮しながら自然との共存を目指していました。

 

そのキブツに、イスラエル人、パレスチナ人、ヨルダン人などが環境学を学ぶインスティチュート(研究組織)があり、寮で暮らしながら授業を受け、夫はテルアビブに住む生活を半年間続けました」

 

キブツの共同生活で考えるようになったのは「共存」すること。人と自然はもちろん、考え方の異なる人同士がともに生きるにはどうしたらいいかでした。

 

「イスラエルに住んでいると、パレスチナとの紛争が大きな課題として突きつけられます。紛争問題を解決したいと思う人同士のなかでも、価値観や目指す方向が異なる場合も。

 

全員が納得する解決方法を見つけるのはとても困難です。それでも、少しでも自分にできることはないかと模索するようになりました」