漫画家の渡辺電機(株)さんが「note」で連載したところ大反響を呼んだ育児漫画『父子家庭はじめました』。今年4月には連載をまとめた単行本『父娘ぐらし〜55歳独身マンガ家が8歳の娘の父親になる話』(KADOKAWA)も発売されました。

 

この作品には、55歳まで独身だった渡辺さんが16歳年下の妻と結婚し、突然始まった連れ子の長女・アユとのふたり暮らしに奮闘する様子が描かれています。

 

ある事情から、ファンの女性と突然結婚することになった渡辺さんが考える「結婚生活に何より欠かせないこと」とは?

50代独身だった頃は「世間に引け目を感じていた」

── 渡辺さんの作品を拝見して、結婚前のご自分をきちんと俯瞰して、現在の幸せを享受されているなあと感じました。


渡辺さん:

55歳まで独身だったので、ひとり身の辛さがよくわかっているんです。男性の独身って、なんとも言えない焦燥感と、落ち着く感じと、すごい気楽なんだけども、やっぱり何か世の中に対する引け目があるんですよ。

 

あくまで僕の考えなのですが、生き物として次の世代を残していくのが最大の仕事って思う部分があって、それができていないっていう負い目みたいなものを常に感じていたんです。だから当時は「俺は子どもの代わりに作品を残しているんだ」などと思っていました。

一生独身のつもりだった渡辺さん。子育ては新鮮だけどシンドい…

── 「婚活」には積極的ではなかった?


渡辺さん:

そうですね。気持ち的にそれどころではなかったし、もともと女性と付き合うことにそれほど関心がなかったんです。

 

── その状況から婚姻届の提出に至るには、相当勇気が必要だったのでは?

 

渡辺さん:

逃げるなら今だよな、みたいな(笑)。そういうことを考えることはありましたけど、子どもがいる生活も面白いですから。

 

結婚前は、仕事面でも企画が通らなくて「環境を変えたほうが絶対に良い」って考えてはいたんです。漫画家としても、「あとはもうフェードアウトしていくだけ」っていう意識が強かったから。

 

でも子どもが生まれたので、あと20年くらい働かなければ…。感覚的には、最終回の後に「To Be Continued」って出てきて、人生の続編があったのか!?みたいな感じです。

母親から「老けたね」…それでも子どもとの生活は楽しい

── 子どもと同居することで、自分の時間が取れないストレスは感じませんでしたか?

 

渡辺さん:

これまで他人と一緒に暮らすということはほぼなかったので、自分の時間がないことが逆に新鮮でした。でも、アユとの同居を始めて2か月くらい経った頃、母親から「あんたすごい老けたけど、大丈夫なの」って言われて(笑)。今思えば、多少のストレスはあったのかもしれませんね。

自分の選択は間違っていなかったか?と自問する渡辺さんが報われた瞬間

── お子さんたちは大きくなられたでしょうね。

 

渡辺さん:

今年で12歳、8歳、3歳になります。いちばん上の子がアユです。

 

いちばん下だけ男の子なのですが、やんちゃ度が違いますね。末っ子なので、やりたい放題です。生まれてしばらくしてから、一瞬でふすまや壁がクレヨンだらけになりました。敷金が返ってこないのはもう確実だな…。子どもが家のなかを汚すのは当たり前だから、もう諦めていますけど。

 

── 独身男性なら経験しなくてすむ苦労が続々…という感じですね。それでも、結婚してよかったと思いますか?

 

渡辺さん:

僕はもちろん妻に巡り会えてラッキーですが、それよりも妻が「元夫と別れられてよかった」と言っているので、それが何より良かったなぁと思います。それに、妻からしたら「漫画家と結婚してよかった。面白い」という感じみたいで。

 

ただ、妻は僕の漫画に対して「こうしたほうが良いよ」とアドバイスをくれるんですが…僕は器が小さいので、「素人がいろいろ言うな」ってカチンとくることも。でも、よく考えるとそっちのほうがいい場合もある。ムカッとしながら直したりしています(笑)。