他人への配慮を突き詰めて考えたら「ありがとう」に行き着いた

── 結婚されて5年が経ちましたが、新婚の頃とどこが変わったと思いますか。

 

渡辺さん:

最初は他人と暮らしていくこと自体に配慮がたりなくて、妻によく怒られました。嫌になって「別れたい」と思ったことがないと言えば嘘になりますが…そういう些細な行き違いを繰り返して、ようやく「ごめんなさい」と「ありがとう」が一番大事なんだなと気づきました。

 

今ではむしろ、僕から率先して言います。特に「ありがとう」をちゃんと言うようになったのは結婚してから。相手がわかってくれているはずと思いながら言うのではなくて、ちゃんと伝えるために言おうっていうのは、本当に結婚してから覚えました。

 

── それでも奥さまとぶつかることはありますか?

 

渡辺さん:

本当に些細なことが原因でぶつかることはあります。あとは単純に機嫌が悪いとか。機嫌が悪いときは何でも腹が立ちますからね。

 

僕は今まで、ほとんど人と衝突することなく、ほんわか生きてきた。でも妻は大阪出身というのもあって、感情を表に出してパーっと言いたいことを言うタイプなんです。僕が怒られたと思っていても、向こうは全然そう思ってなかった、なんてこともよくあります。でも、基本的に夫婦仲は良いと思ってます。

 

── 子どもにとっては、両親の仲が良いのがいちばんですよね。

 

渡辺さん:

アユから「前のパパと暮らしていたときは、夜中ずっと怒鳴りあう声が響いて、布団のなかで泣いていた」と聞いて、それだけは止めようと思って。でもそれほど努力をしなくても、今はほとんど喧嘩をせずに済んでいます。

 

僕は両親が喧嘩しているところもほとんど見たことがなくて。喧嘩って、自分がしていなくても見ているだけで、嫌だなっていう気持ちがすごく残りますよね。だから子どもには仲が良いところを見せたいんです。

 

── 仲が良い夫婦には「ありがとう」の声かけが多い気がします。

 

渡辺さん:

当たり前といえばそうなんですが、やっぱり大事だなと思います。あと「ごめんなさい」とか「美味しかった」とかも、なるべく伝えるようにしています。妻の料理は美味しいので、素直に言えるのもよかったかな。

 

── とはいえ、「ありがとう」や「ごめんなさい」って、なかなかスッと出ないという人もいそうです。

 

渡辺さん:

ナインティナインのラジオを聞いていたときに、まだ結婚前の岡村さんに矢部さんが、「結婚で大事なのは、ありがとうとごめんなさいや」みたいなことを言っていたんです。

 

矢部さんの奥さんはフリーアナウンサーで特に多忙でしょうから、相手を気づかう部分をより強く意識したのかもしれないけれど、それって男女問わず大事なこと。

 

一緒に育ってきたわけでもない大人同士が、狭い家で一緒に暮らすのであれば、当然価値観も違う。全然考え方が違う部分のほうが多くて、擦り合わせるのも大変なんですね。

 

だからとりあえずぶつかったら、ごめんなさい。何かうまくいったらありがとう。このふたつの言葉がないと、全てが回らない気がするんです。

 

子どもたちに対しても、それだけはしっかり伝えるようにしています。

 

PROFILE 渡辺電機(株)さん

1962年生まれ。明治大学在学中より成人向け漫画や、石ノ森章太郎のアシスタントを経験。平成元年より現在のペンネームにて、ゲーム誌や少年誌、青年誌などで幅広く活動。今年4月には、「note」での連載をまとめた書籍『父娘ぐらし〜55歳独身マンガ家が8歳の娘の父親になる話』(KADOKAWA)が発売。

渡辺電機(株)著『父娘ぐらし』書影

取材・文/池守りぜね