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「ワーケーションは有休消化の場だけではない」働き方にさらなる変化の兆し

仕事

2022.01.09

全国各地で聞くようになった「ワーケーション」。「ワーク」と「バケーション」を合わせた造語で、2010年代、旅をしながら仕事をするデジタル・ノマドたちが自分たちを指したり、社員でも仕事を休暇中に挟むことで長期間休暇を取得できるといった意味で使われていたそうです。2022年以降、ワーケーションはどう変わるのか…関西大学の松下慶太教授に話を聞くと「このままだとワーケーションは成功しないかもしれない」と驚く言葉が──

2017年頃から注目されたワーケーションの背景

── 松下先生は著書で、ワーケーションを「ワーカーが休暇中に仕事をする、あるいは仕事を休暇的環境で行うことで、取得できる休み方であり、働き方。また、仕事に効果があると考えられる活動」と定義されていますね。そもそも、どういう流れで広まってきたのでしょうか。

 

松下先生:

日本では2017年ごろから徐々に注目されるようになってきました。東京への一極集中、少子高齢化が問題となったことに対して、政府が「人生100年時代構想会議」を2017年に設置し、「人づくり革命」と呼ばれる政策提言をしました。

 

その流れで、同年ごろから副業、兼業が認められだし、増えていきました。2019年からは働き方改革関連法が施行。長時間労働の是正や柔軟な働き方が企業に求められ、「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が使用者に義務づけられました。

 

そんななかで、休暇も兼ねたワーケーションは社員、企業双方にとって有給取得をスムーズにするために有効と考えられました。

また、ワーケーションには地方創生の側面もあります。移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない。地域の人と多様に関わる「関係人口」の創出に注目が集まるようになりました。

 

そのため、現在のワーケーションは、デジタルノマドたちが実践するワークスタイル、ライフスタイルというよりも、働き方改革を進める企業、そして、関係人口の創出を目指す地域が主導しながら推進する「日本型ワーケーション」になっています。

 

日本の自治体でワーケーションという言葉を使用し、積極的に進めてきたのは和歌山県です。

 

以降、日本の各地でワーケーションを推進する流れが広まります。2019年には「ワーケーション自治体協議会」が設立され、65自治体が参加。2021年12月時点で、参加自治体は200団体を越すまでに増加しています。

成功した姿がわからないまま取り組む自治体

── そんなにも広まっているんですね。そんななかで見えてきた課題はありますか。

 

松下先生:

課題はさまざまですが、自治体にとっての課題は前例主義に縛られることですね。よく「成功した地域はどこですか」と聞かれます。では同じようにやれば良いかというと、失敗します…というと怒られるかもしれませんが、成功事例を真似るだけでうまくいくとは限りません。

 

── モデルケースが少ないなかで、他の自治体の成功事例を真似したいという気持ちはわかりますが、そんな厳しい状況なのですか。

 

松下先生:

たとえば、自治体がワーケーションをきっかけに移住促進をしたいのであれば、これまでの観光と同じような対応では難しいですよね。また、関係人口の創出を目指しても、そもそも地域のホテルの受け入れ人数が不足しているケースもあります。

 

── 働きやすい環境も整える必要があるわけですね。

 

松下先生:

そうですね。ただ、やはりまずは観光活性化・産業振興・移住…何を目的とし、何を持って成功か否かを判断するのか、自治体がイメージしたうえで取り組むことが重要です。自治体ごとに成功の基準は異なるはずですが、それもわからないままに取り組む自治体が少なくありません。

 

また、各地で実施されているワーケーションのモニターツアーを見ても、内容を詰め込みすぎているケースも多い。それでは、来訪者が仕事をする暇がありません。訪れる人は何のためにきたのかを考え、活動のための余白を作ることが大切です。

 

ワーケーションでは「今は暇だからこれをしようかな」くらいの余白による自律性を生む機会提供が重要だと思います。

 

2021年以降のワーケーションの変化

 

── そうなると、有休消化のためというより、ワーケーション自体にもう少しクリエイティブな効果が生まれますね

 

松下先生:

これまでのワーケーションは観光客として短期間滞在し、一定の消費をしてくれる人たちをターゲットに考えていましたが、これからは違います。ワーケーション2.0として、自治体と来訪者、双方が新しい価値を生み出せるパートナー的な関係に発展していくことが重要だと考えています。

 

── ちなみに、企業から見た場合、ワーケーションのメリットや目的は何でしょうか。

 

松下先生:

企業には、有休消化をスムーズにする狙いのほか、生産性アップを念頭に行うところも出てきています。

 

しかし、生産性は、事務作業ならば測りやすいかもしれませんが、イノベーションを必要とする部門だと、作業量では測れません。ワーケーションを行った2週間後に、あるいは1年後、アイデアが降ってくることがあるかもしれないため、すぐに効果は測定できないからです。生産性アップを企業が過度に求め出すと社員がプレッシャーに感じ、逆効果になるかもしれません。

 

だから、企業からみた場合、生産性が変わらなければ「従業員の健康増進になったな、リフレッシュできな」というくらいでもいいのではないかと思います。

来訪者にとっては、仕事と観光を重ねた刺激を受ける場

── 自治体も企業も、新しい取り組みへの期待が大きいのだと思いますが、詰め込みすぎないことが大切ですね。最後に、私たち働く人にとってのワーケーションのメリットを伺えますか。

 

松下先生:

先ほどお伝えしたように自律性が育まれたり、地域の人と交流したり、活動することで、イノベーションのタネを拾うかもしれません。

 

ポイントは仕事と観光を切り分けるのではなく、仕事と観光を重ね合わせることで新しいものを発想していく働き方です。

 

これまで日本人は、仕事は辛いもの、我慢してやるものといった先入観が強く、温泉に入ってから会議に出るとつい「すみません」と言いたくなっていました。反対に、観光のときは仕事を忘れて楽しむものとの刷り込みもあります。そこを脱することがワーケーションでは大事です。

 

ワーケーションの効果は出るかもしれないし、出ないかもしれない。そういった意味で、すべての人がやるべきことでもありません。ただ、ワーカーにとって何かいい刺激を受ける場になる可能性があるので、やってみる価値はあると思います。

 

PROFILE 松下慶太

松下慶太
関西大学社会学部教授。1977年神戸市生まれ。博士(文学)。京都大学文学研究科、フィンランド・タンペレ大学ハイパーメディア研究所研究員、実践女子大学人間社会学部専任講師・准教授、ベルリン工科大学訪問研究員などを経て現職。専門はメディア論、コミュニケーション・デザイン。近年はワーケーション、デジタル・ノマド、コワーキング・スペースなど新しい働き方・働く場所と若者、都市・地域との関連を研究。近著に『ワークスタイル・アフターコロナ』など。

取材・文/天野佳代子 資料提供/松下慶太

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