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「清掃=おばちゃんの職業」という概念を変えたある女性の戦い

仕事

2021.01.29

女性起業家・西山貴代さん

子どもの頃、ドラマで見た客室清掃員の華麗なベッドメイキングに魅了され、ホテル清掃の仕事に憧れを抱いていたという西山貴代さん。19歳で業界に飛び込んで以来、13年間の副業としてキャリアを継続、2017年に「客室清掃コンサルタント」として起業しました。

 

ホテル清掃に特化したコンサル業という、ユニークなビジネススタイルが話題を呼び、昨年、女性社長.netが運営する、女性社長が選ぶ女性社長アワードJ300アワード」で、見事大賞を受賞。

 

“業界のネガティブなイメージを払拭したい”と、目を輝かせる西山さんは、生後5か月の子供を育てる新米ママでもあります。育児と仕事に奮闘するそんな西山さんの起業家ストーリーに迫ります。第1回は、ホテル清掃とマクドナルドのダブルワークに明け暮れた学生時代のお話から──。

きっかけは子どもの頃に観たドラマ

── 西山さんは、“ホテル清掃に特化したコンサル”として起業されたとのことですね。あまり聞きなじみがないジャンルですが、業務内容はどのようなものなのでしょうか?

 

西山さん:

ホテル清掃の品質向上を指導する仕事です。現状確認から品質の向上、人材育成、定着までを一貫して担っています。ホテル清掃は、常に人材不足で入れ替わりも激しい業界です。スキルやサービスを標準化するための体系的な仕組みを作り、長く働いてもらえるように教育体制を整えてキャリアパスを創っていく。ネガティブな業界のイメージを変えて、ホテル清掃を“憧れの仕事”にするのが私の目標です。

── そもそもホテル清掃に携わったきっかけは何だったのでしょう。

 

西山さん:

大学生の時に、ホテルの客室清掃のアルバイトをしたのがきっかけです。小学生の頃、『ホテル』というドラマのワンシーンで、客室清掃員が何重にも折られたシーツをピシッ!と揃える場面があったのですが、それを見て「かっこいい!いつか私もやってみたい」と子ども心にずっと憧れを抱いていました。

 

もともと小さい頃から掃除や片付けが大好き。部屋のモノをすべてひっくり返して片づけてみたり、道に落ちている煙草の吸い殻を拾って捨ててみたりと、ちょっと変わった子どもでした(笑)。

 

ホテル清掃の仕事は土日と休日だけだったので、マクドナルドのアルバイトと掛け持ちしていました。学校が休みのときには、朝10時から15時までホテル清掃のバイトをして、16時から深夜0時までマクドナルドで働く…という生活を送っていました。

 

── ホテル清掃もマクドナルドの仕事も、どちらもかなりハードだと思うのですが、ダブルワークとはタフですね(笑)。

 

西山さん:

どちらもすごく楽しかったし、別の仕事をすることで気分転換とストレス解消になってお金も稼げる。私にとってはいいことづくめだったんです(笑)。

 

マクドナルドでは、大学2年生からスウィングマネージャーとして人材育成、販売促進、経費コントロールなど、店舗運営にも関わり、マネジメント全般を担当していました。店舗運営のノウハウをもっと学びたいと思い、大学卒業後もマクドナルドで働きながら、週末や年末年始はホテル清掃の仕事を続けていましたね。スウィングマネージャーとして、シフト管理、200名を超える教育や研修に携わり、技能コンテストではフロアサービス部門で優勝したこともあります。

マクドナルドでの業務経験が今に生きている

── マクドナルドは、体系化された教育システムや効率的なオペレーションで、技術やサービスが標準化されていますよね。そこで学んだノウハウも、今のビジネスにいかされているのでしょうか?

 

西山さん:

店舗運営の流れをひと通り学べたことは、すごく大きかったですね。なかでも、“サイレントクレーム”に対する考え方は、今でも私が仕事をするうえで日々大切にしていることのひとつです。

 

──“サイレントクレーム”というのは?

 

西山さん:

表には出てこないユーザーの不満です。目に見えない“サイレントクレーム”のなかにこそ、改善のヒントが隠れていることが多い。それをいかに見つけて改善していくかが、顧客満足度を上げるためのポイントだということをマクドナルド時代に学び、以来、サイレントクレームに対する意識を持って日々の仕事をしています。

 

女性起業家・西山貴代さん

── 学生時代から仕事に対するプロ意識が高いですよね。もともと起業や独立を目指していたタイプだったのですか?

 

西山さん:

いえ、まったく()。親も普通の会社員でしたし、身近な人に起業している人もいなかったので、そうした選択肢すら持ちあわせていなかったです。ただ、子どものころから“女性は男性をサポートするもの”といわれて育ったせいか、“男の人には負けたくない”という気持ちが強かったですね。

 

中学校からずっと女子校だったので、女性がリーダーシップをとることが当たり前の環境だったことや、キャリアを極めている女性を講師に迎えて話を聞く機会も多かったことから、「女性の生き方はひとつじゃない、自由で可能性があるんだな」と思うようになり、私も将来スキルを身につけて社会で誰かの役に立ちたいという気持ちをずっと抱いていました。

一番長続きしたホテル清掃の仕事。でもあくまで副業…

── その後は、どのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。

 

西山さん:

マクドナルドで5年間働いた後は、派遣や契約社員として、数年単位でいろんな仕事をしてきました。建設コンサルタントでまちづくりの仕事に関わったり、大手通信関連企業では、社内の業務効率化やコスト削減、社内研修業務を経験したり。その後は出版会社で、厚生労働省の委託事業の雇用管理に関するセミナーやコミュニケーション講座の運営、開催に携わりました。

 

会社員として働いていた間も、休日や長期休みは、ホテル清掃の仕事をずっと継続していました。通算13年間なので、一番長く続いた仕事になりますね。

 

── 13年間、同じ副業をするというのは、なかなか珍しいケースですよね。ホテル清掃のどのあたりに魅力を感じていたのですか?

 

西山さん:

決められた時間内に、いかに自分のパフォーマンスを見せられるかというところに一番やりがいを感じます。清掃って誰にもできる単純単調な作業だと思われがちですが、それは大きな間違い。

 

客室清掃は、ただ綺麗にすればいいわけではなく、すべて元通りに戻さなくてはいけないし、部屋によって使われ方もまったく違います。どこからどう取り掛かるべきかを瞬時に判断し、短い時間の中で多くのタスクをこなして、いかに完璧な状態に整えるかというところに面白さとやりがいがあります。例えるならパズルゲームのような感覚ですね。

 

加えて、ホテル清掃は人手不足な上、長期で働く若い人がすごく少ないので重宝してもらえるというのも、モチベーションになっていました。

 

──パズルゲーム感覚というのはユニークな表現ですね。まさに天職だったわけですが、本業にしようとは思われなかったのはなぜでしょう。

 

西山さん:

理由は2つあります。一番のネックは収入面の問題。清掃の仕事は、社員でも給料が安いんです。本業にするにはリスクが高く、決断できませんでした。

 

2つめが、業界の体質です。若い世代の女性が非常に少なく、閉鎖的な雰囲気があるのは否めません。大学生の時に、最初に現場でかけられた「なんでわざわざこのバイトを選んだの?ほかにも仕事あるでしょ?」という言葉には、少なからずショックを受けました。ここ数年は若い方や外国人の方も増えてきたものの、それまでは主婦の方や年配の方が多く空いた時間を活用して短時間働くというケースがほとんど。ですから、そう揶揄されるのも仕方ないことだったとは思いますが。

 

── 本来、やりがいも魅力もある仕事なのに、業界としてそれが生かせる環境が整っていなかったというわけですね。そうした思いも起業の後押しになったのでしょうか。

 

西山さん:

この仕事が大好きで、やりがいも感じてきたからこそ、人手不足や離職率の高さなど、いろんな課題を解決して業界を変えていきたいという思いは強いですね。

 

 

静かにホテル清掃への情熱を燃やし続けてきた西山さん。その熱い思いがついに西山さんの運命を変えていきます。次回はホテル清掃のコンサル業で起業後に直面した数々の苦難についてお話を伺います。

 

Profile 西山貴代(にしやま・きよ)さん

大学卒業後、契約社員や派遣として国内大手通信企業、出版社などで働きながら、ホテル清掃の仕事に13年間従事。藤田観光グループ主催の技能コンクールにて2年連続受賞。ホテル清掃に関する様々な問題を経験とスキル、掛け合わせの提案で解決したいとの思いから、2017年6月、ホテル清掃に特化したコンサル会社「clean next」を起業。2020年、女性社長.netが運営する、女性社長が選ぶ女性社長アワード「J300アワード」にて、大賞「ホテル清掃のプロ!革命的な効率化スキルと魅力で誰もが憧れる職業にするで賞」を受賞。

 

取材・文/西尾英子 撮影/林 ひろし

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