それぞれの思いを繊細に描く俳優陣の演技にも注目!
永作さんと井浦さんは、それぞれが実生活でも2児の親。河瀨監督がキャスティングするうえでも、そこにこだわりをもっていたそうです。
作品の中で、佐都子が愛おしそうに朝斗を見つめるまなざしも、寝かしつけながら優しくふれる手も、まさに母親ならではの自然な愛情がにじみ出ていました。永作さん自身も、こんなふうに語っています。
「子どもって意味もなく母親にさわりますよね。朝斗もそれに近い感覚で私にさわってくれるのがうれしくて、私も気持ちよく母親になっていましたね」
また、井浦さん演じる清和は実直で優しい夫であり、不妊の原因が自分にあることに思い悩むさまを繊細に演じています。本当にハマり役といえる素敵なダンナさん!
「役を積んでいく段階で、クランクイン前から無精子症のお父さんとお話をさせていただいたのがとても大きかったです。だから、もろちんショックではあるけど、自分たちだけではない、ほかにもこういう人たちがたくさんいるんだと、どこかで感じながら、それを大事にしていました」と、井浦さん。
14歳で子どもを身ごもる、もうひとりのヒロイン・ひかりを演じた蒔田彩珠さんは、撮影当時16歳。幼くもはかない少女だった彼女が、やがておなかの子が大きくなり母となっていくなかで、覚悟や凄みを増していく姿に圧倒されます。そして、その後の彼女の人生から目が離せず、幸せになってほしいと願わずにはいられないのです。
特別養子縁組あっせんの民間団体・ベビーバトン代表の浅見を演じた浅田美代子さんは、河瀨監督の『あん』にも出演した唯一の“河瀨組”経験者。おおらかで強く温かい包容力で、ふたりのヒロインのみならず、観客をも包み込むような存在感で好演しています。
井浦さんが「劇中で清和がした決断は、すべて自分が選択したような不思議な感覚でした」と振り返るように、まさにそれぞれが「その人そのもの」であるとしか思えない、映画『朝が来る』の世界観。
よくある日常の風景が、自分のすぐ近くにある出来事のような真実味を持って心に迫ってきます。だからこそ問いかけずにはいられないのです。私ならどうするだろうか。本当の親子とは何だろうか、と。
[作品情報]
映画『朝が来る』
【公開日】10月23日(金)
【原作】辻村深月 『朝が来る』(文春文庫)
【監督・脚本・撮影】河瀨直美
【共同脚本】髙橋泉
【出演】永作博美 井浦新 蒔田彩珠 浅田美代子
佐藤令旺 田中偉登/中島ひろ子 平原テツ 駒井蓮
山下リオ 森田想/堀内正美 山本浩司 三浦誠己 池津祥子 若葉竜也 青木崇高/利重剛
【主題歌】C&K「アサトヒカリ」(EMI Records/UNIVERSAL MUSIC)
【製作】キノフィルムズ・組画
【配給】キノフィルムズ/木下グループ
【公式サイト】asagakuru-movie.jp
©2020「朝が来る」Film Partners
取材・文/相川由美