原作の魅力を余すところなく再現した、河直美監督の「リアリティ」へのこだわりが随所に

辻村深月さんの原作小説『朝が来る』は、2016年の本屋大賞にもノミネートされた社会派ミステリー。特別養子縁組を軸に人生が交わっていくふたりの女性と、ひとりの子どもの姿を丁寧かつ繊細にあぶりだしていきます。

 

©2020「朝が来る」Film Partners

 

子どもを授かれない夫婦の葛藤と希望、そして迎えた子どもとのかけがえのない日々に痛いほど共感し、その一方で、幼いがゆえに愛しいわが子と引き離されなければならなかった実母の魂の叫びに胸が引き裂かれ…。どちらの女性にも「母」を感じ、激しく心が揺さぶられる物語です。

 

テーマとなる「特別養子縁組」制度についてのしっかりとした取材力にも脱帽せずにはいられません。養親と養子であっても法的に「実の親子」と同じ関係を結べる制度で、日本では1988年に施行されたものの、成立件数は欧米に比べて圧倒的に少ないのだそう。「育てられない命」を救える大きな選択肢のひとつなのに、日本ではまだまだこの制度が知られていないのです。

 

自身も一児の母であり、現代が抱える問題を作品で指し示してきた河瀨監督が、この小説に深いシンパシーを覚えて映画化を熱望したというエピソードにも大いにうなずけます。

 

監督は、映画のなかでその原作の魅力を余すところなく表現し、さらに河瀨監督ならではの方法で「リアリティ」を追求していきます。

 

それは、俳優さんたちに「演じる」のではなく、「その人そのものになってもらう」というもの。いわば「役作り」ではなく、登場人物が経験することを実際に体験してもらうことで、その人としての経験を積む——河瀨監督の言葉で表現するなら「役を積む」ことを大切にしているのだそう。

 

たとえば今作では、永作博美さんと井浦新さんは実際に不妊治療の問診を受け、特別養子縁組で養子を迎えた家族に会ってお話を聞き、付き合い始めた頃にデートを重ねたという設定の宇都宮の街をふたりで歩いたりもしたのだとか。

 

監督が一番大切にしたのは、子どもを迎えて家族3人になったときの「本物の空気感」。そのために、実際に撮影に使われるタワーマンションの部屋で3人はつねに一緒に過ごしながら、「役積み」を始めたそうです。

 

©2020「朝が来る」Film Partners

 

「お母さん」「お父さん」「朝斗」と呼び合い、朝斗のために好きな料理を作り、一緒にお絵描きをしたり、3人でショッピングモールへ買い物に出かけたり。カメラがまわっていないところで「役を積む」ことで、3人はどんどん本当の家族になっていったといいます。

 

そのときの様子を、永作博美さんがこんなふうに話してくれました。

 

「撮影の空き時間も、どんだけ朝斗と遊んだかっていうぐらい遊んで。清和(井浦新)も死ぬほど飛行機を作らされていましたね(笑)。“もっと飛ぶヤツ作って”“これ飛ばないよね”って。普通の親子のように、子どもが親に無理難題を言って、調子に乗りすぎるとお父さんがたしなめる、みたいな場面もありました」

 

その言葉に応じるように、“お父さん”を演じた井浦さんも振り返ります。

 

「“人の子どもだからあまり怒っちゃいけない”とは考えずに、父親として遊ぶときは遊ぶし、いきすぎたら注意する。それはやっぱり3人で役を積まなければできないことでもあったし、やがて“朝斗のことを何が何でも守らなければ”という気持ちにもなっていきました」

 

一方、実母である片倉ひかり(蒔田彩珠)の家族も、実際に奈良で一軒家を借り、撮影までの期間を4人で共同生活していたそうです。

 

そのうえ、ひかりは実際に制服を着て地元の中学校に通わせてもらい、授業を受けたり卓球部の部活にも参加していたそうで、そこで関西弁のコミュニケーションにも自然と慣れていったとか。もはや「そこまでやるのか!」と唸ってしまうほどのこだわりようです。

 

河瀨監督の「リアリティ」の追及は、特別養子縁組の説明会のシーンで発揮されます。今作では、NPO法人ベビーバトンの説明会で、喜びや葛藤を涙ながらに語る養親さんや、実母がその心情を語る場面も、すべてが俳優ではない、「本物」の特別養子縁組を経験された方たちなのだそう。

 

その「本物の強さ」に揺さぶられたからこそ、佐都子と清和も特別養子縁組への決意を固めていく、まさに肝になる場面だったといえるでしょう。

 

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