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母親の行動や心境に「理解できない部分もあった」。映画『影踏み』篠原哲雄監督×原作者・横山秀夫スペシャルインタビュー

ライフスタイル

2019.11.16

2019.12.08

原作者の横山秀夫さん(左)と篠原哲雄監督(右)

 

『64(ロクヨン)』『クライマーズ・ハイ』などで知られる作家・横山秀夫さんの同名小説を『花戦さ』『天国の本屋〜恋火』の篠原哲雄監督が映画化した映画『影踏み』が、11月8日(金)より群馬県先行、15日(金)より全国公開中です。

 

主演は篠原監督の初長編映画『月とキャベツ』でタッグを組んだ山崎まさよしさん。山崎さんは本作の主題歌も担当しています。今回CHANTO WEBでは、篠原監督と原作者の横山さんスペシャルインタビューをお届け! お互いの印象や、撮影時のエピソード、映画と小説での表現方法の違い、さらに大竹しのぶさん演じる母親役について、たっぷりとお話を伺いました。

 

© 2019「影踏み」製作委員会

 

—— 「伊参(いさま)スタジオ映画祭」でのシナリオコンクールの審査員がお二人の出会いと伺っています。お互いの印象を教えてください。

 

横山さん 審査員としてご一緒する中で、篠原監督は「考える人」という印象を受けました。誰かが何かを発言すると「うーん」って考え込み、そのまま黙ったままなんです。そして最後にポツリと「あ、なるほどな」という深いコメントを発する、そんなイメージです。

 

篠原監督 数々の原作が映画化されている先生なので、会う前はかなり緊張して恐縮していました。でも、実際に審査をしながら意見を交わす中で、「ミステリー作家としてそれは聞き捨てならない!」とかはっきりとおっしゃる方だとわかりました。でも、いろいろなことをはっきりと正直に言ってくださることが、とてもありがたかったし、うれしかったですね。

 

横山さん 書き手として大切にしていることを「(映像にするうえでは)そんなことはどうでもいいんだ」ってバッサリと言うんですよ、監督は(笑)。人様の作品を審査するからには、私も真剣なので、優しい言葉もきつい言葉も言わざるを得ないという感じでしたね。

 

—— いろいろと意見が交わされる審査だったのですね。では、実際に一緒に作品を作る際にも、たくさんディスカッションされたのでしょうか?

 

横山さん 自分たちの作品となると「ここは削らないで」「そこはどーでもいい」というやりとりはなく、割とスムーズに進みました。漫画の原作を書いた経験からいうと、たとえ自分が書いたシナリオでも、漫画家が1本線を入れた段階でそれは漫画家のものになるんですよ。ましてや映画となったら生きている人間が演じるわけだから、「映画は映画人のもの」というスタンスで託しましたね。

 

篠原監督 託されることは、ありがたいことなのですが、同時に怖さでもありました。どういうスタンスで何を狙って撮ればいいのか。とても緊張したし、きちんと形にしなければいけないという気持ちになりましたね。

 

© 2019「影踏み」製作委員会

 

—— 原作を読んでいる方は、小説のファンタジー部分をどう描くのか気になるところだと思います。

 

横山さん シナリオが出来上がって、描き方について意見を求められることもありましたが、映画と小説では表現方法がまったく違います。なので、「映画の人が考えることじゃないですか?」としか言えない部分もありました。でも、出来上がったものをみて「そうきたか」と納得しましたね。

 

篠原監督 「民」の視点から見た「官」という大前提の視点があったことが大きな意味を持っていました。

 

横山さん 山崎さんもそこに食いついていましたからね。

 

篠原監督 3人の共通意識がそこにちゃんと固まっていましたね。社会の「民」の底辺にいる人間が、世の中をどう見ていくのか。自分を敵対視している警察をどう欺いていくのか。3人の共通認識が、すべての土台になっていると思います。

 

横山さん 私は「組織の中の個人」をずっと書き続けてきました。今回の『影踏み』では、組織の概念を広げて、官を含めた社会の中の個人がテーマになっています。ミュージシャンである山崎さんは、自身が民の中にいる個人という強い自意識をお持ちで、私も共感できました。

 

© 2019「影踏み」製作委員会

 

—— 映画と小説、映像と文字では表現方法が違うとおっしゃっていましたが、お互いの表現方法で感じた驚きや、発見はありましたか?

 

横山さん ファンタジー部分を抽象的ではなく、具体的に映像化したところには本当に驚きました。それがこの映画のひとつの醍醐味になっています。それによって描けたものは大きいと感じましたね。

 

篠原監督 例えば、小説の中にある描写が映画の中ではないというのもあります。犯人の人物背景を描くうえでポイントとなる描写です。原作に描かれているものをそのまま映画で表現すると、見えることで縛られてしまいますからね。

 

横山さん その逆に、映像で見せてしまえば、一瞬にしてすべてがわかってしまうことがあります。敢えて書く、敢えて書かないができるのが小説。映画と小説は文法的に違うものだから、こちらも「原作通りに作ってくれなくちゃ嫌」とは言えないわけです(笑)。

 

© 2019「影踏み」製作委員会

 

—— 俳優としての山崎さんはいかがでしたか?

 

篠原監督 山崎さんの場合は、彼自身がそこに存在して、真壁修一という人物が乗り移る。彼の持っているもので登場人物が成り立つというところに、彼の存在の特別なところがあると思っています。

 

横山さん すごくよかったですよね、佇まいとか。

 

篠原監督 久子役の尾野真千子さんや、啓二役の北村匠海さんが、山崎さんのお芝居を引き出していくような印象を受けましたね。

 

© 2019「影踏み」製作委員会

 

—— 修一のお母さん役の大竹しのぶさんはいかがでしたか?

 

篠原監督 大竹さんは山崎さんの大ファンということで、この作品を引き受けてくれました。撮影場所のスタジオで一緒にワインを飲む機会があったのですが、とにかく山崎愛が強かったですね(笑)

 

横山さん 北村さんとのシーンは、すごく迫力がありましたよね。

 

—— 感情を爆発させるシーンがとても印象的でした。

 

篠原監督 私自身、作中の母親が息子に抱く感情は正直言ってわからないところがあります。偶然ですが、近くに主人公の母親のような感情を抱いている方がいたこともあり、「一歩間違えれば、人にはそういう行動を引き起こす可能性はあるのかも」と感じました。母親が感情を爆発させるシーンの撮影は、大竹さんとその場でいろいろと話しながら、あの表現に行き着きました。

 

© 2019「影踏み」製作委員会

 

© 2019「影踏み」製作委員会

 

—— 今回は、ファンタジーや恋愛要素もあり、CHANTO WEB読者にも観やすい作品になっている気がします。

 

横山さん 私の作品は、デビュー当時は9:1で男性の読者が多かったのですが、今は5:5くらいの割合になりました。『影踏み』に関しては、女性の方が多く読んでくださっているらしいんです。他の小説でファンタジー要素を入れているものはないですし、そこも含めて実験的な試みを多く入れた作品です。この作品は映像化するのは難しいと半分諦めていましたが、篠原監督があれだけの作品に仕上げてくれたことには、本当に感謝しています。

—— ロケーションもすごくいいですよね。

 

篠原監督 住宅街は伊勢崎、飲屋街は高崎、商店街は前橋というように、場所を分けて撮影し、架空の“市”が出来上がりました。さりげない場所が多いのも、群馬の魅力ですし、ロケーションとしては最高の場所です。

 

横山さん いくつかの場所で撮影していても、統一感がありましたよね、映像として。いつもは撮影現場には1回くらい差し入れを持ってお邪魔するのですが、今回は5回も足を運びました。手作り感があるし、伊参の映画祭で知り合ったことがきっかけでもあったし、群馬でオールロケをしているということもあり、客人というよりは当事者感覚で見に行きました。監督には恐れ多くて声をかけられなかったですが(笑)

 

篠原監督 横山さんがいらっしゃっているのは気づいてましたが、「どういう風に思われたかな?」とか思うと、なかなか声はかけられず……。

 

横山さん 特に気にしてるふうはなかったですよ?(笑)

 

篠原監督 目線で気にしてる感は出してました(笑)。ラストのシーンは撮影最終日に撮ったのですが、そこで「すごく良かったですね」と声をかけてくださり、ホッとしたのを覚えています。

 

横山さん 「このシーンに繋がっていくのか」と納得するのと同時に「いい映画になるだろうな」と期待が膨らみましたね。

 

篠原監督 本当は、あのシーンは天気が悪いことを想定していました。でも撮影当日はすごくお天気がよくて、なんて気持ちいいところなんだろうって。メインカットの撮影が終わったら、あとは自然にまかせて撮ろうという気持ちになりました。

 

横山さん やはり、映画と小説は作り方が全然違いますね。私なんかいつもこもってひたすら書くだけ。部屋から出ない日が続き、閉塞感の中で生きているので、映画の撮影現場ではあんなに大勢の方が作業をしているのかとわかって、とても新鮮でした。

 

—— 美しい丘のシーンは、大きなスクリーンでまた観たいと思います。ありがとうございました!

 

<プロフィール> 篠原哲雄/映画監督 1962年2月9日生まれ。東京都出身。明治大学法学部卒。その後、助監督として森田芳光、金子修介、根岸吉太郎監督作品などに就く傍ら、自主制作も開始。1989年に8ミリ『RUNNING HIGH』がPFF89特別賞を受賞。1993年に16ミリ『草の上の仕事』が神戸国際インディペンデント映画祭でグランプリ受賞。国内外の映画祭を経て劇場公開となる。山崎まさよしが主演した初長編『月とキャベツ』(96)がヒット。その後、『洗濯機は俺にまかせろ』(99)、『はつ恋』(00)、『命』『木曜組曲』(ともに02)、『昭和歌謡大全集』(03)、『深呼吸の必要』『天国の本屋~恋火』(ともに04)、『地下鉄(メトロ)に乗って』(06)など多彩な作品を手がける。近年の監督作品に野村萬斎主演の『花戦さ』(17)、いくえみ綾原作の『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』(18)、文音&草笛光子が主演した『ばぁちゃんロード』(19)など。『月とキャベツ』のスタッフが再結集して制作した『君から目が離せない Eyes On You』(19)では、山崎まさよしが主題歌を提供した。

 

<プロフィール>横山秀夫/作家 1957年1月17日生まれ。東京都出身。大学卒業後、上毛新聞社で12年間記者として勤務。1991年『ルパンの消息』でサントリーミステリー大賞佳作を受賞し、新聞社を退社。その後、フリーライターなどを経て、98年の『陰の季節』で小説家デビュー。02年に発表された『半落ち』や、『クライマーズ・ハイ』(02)、英国推理作家協会の翻訳部門の最終候補作にもなった『64(ロクヨン)』(12)は、異なった俳優を主演に据えて映画版とドラマ版が制作され、それぞれ高い評価を受けた。ほか、『出口のない海』(96)が映画化、『顔』(02)や『震度0』、『ルパンの消息』(ともに05)などがドラマ化されたほか、『陰の季節』シリーズや『第三の時効』シリーズ(ともにTBS系)、『臨場』シリーズ(テレビ朝日系/12年には映画化)など、ドラマでもシリーズ化され愛されている作品が多数。

 

>>>『山崎まさよしさんが名曲の数々を生演奏した完成披露試写会レポート』はこちらから…

 

[作品情報]

映画『影踏み』

◉11月8日(金)より群馬県先行、11月15日(金)より全国公開中

◉出演:山崎まさよし 尾野真千子 北村匠海

中村ゆり 竹原ピストル 中尾明慶 藤野涼子 下條アトム 根岸季衣 大石吾朗

高田里穂 真田麻垂美 田中要次 滝藤賢一 鶴見辰吾

/大竹しのぶ

◉原作:横山秀夫「影踏み」(祥伝社文庫)

◉監督:篠原哲雄

◉脚本:菅野友恵

◉音楽:山崎将義

◉配給:東京テアトル

◉公式サイト kagefumi-movie.jp

© 2019「影踏み」製作委員会

取材・文/タナカシノブ

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