2019.10.04
〝孫ブルー〟という言葉をご存知ですか? 孫が生まれるのは嬉しいことで、きっとかわいいに違いないのはわかっている。でも孫の育児に協力するとなると、辛かった自分の育児体験を思い出してしまったり、自由がなくなることで憂鬱になることです。実の娘でも言いづらい、祖母たちの本音をお聞きしました。
■やっと手に入れた自由なのに …(恵子さん/64歳/専業主婦)
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娘がふたり、息子がひとりいます。それぞれが進学・就職・結婚などで家を出て行き、私も定年退職をしたので、30年ぶりに「子どものいない生活」を手に入れました。最初こそさみしかったものの、好きなように出かけられたりインテリアや庭をいじったり、楽しいことばかりでした。
そんなときに、長女から「妊娠した。里帰りするからよろしくね」と連絡がありました。孫の誕生は心から祝福したいのですが、電話を切ってふと部屋を見回すと、観葉植物や絵など、この先子どもが歩き始めたら危険なものがたくさん。
次女や長男のところにも、いつ子どもができるかわかりません。お盆休みには庭でバーベキューをして、年末年始は孫にお年玉をあげて…と楽しい生活が待っていることもわかります。でも「あれも片づけて」「これも捨てて」と、考えていると涙があふれてきました。
悠々自適な生活は、もうこの先訪れることはないのでしょうか。また誰かの都合を気にしながら生きなければならないのか…と思うととてもつらいです。つかの間でも自由を手に入れてしまったからこそ、孫の誕生を全力で喜べない自分に戸惑っています。
■子育ての大変さがフラッシュバックする(房江さん/57歳/パート)
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娘夫婦は近所に住んでいます。義両親は「老後を楽しむ」と言って、南国に移住されたんだとか。娘は「住み慣れた土地も友だちも家も断ち切って海外なんて!」と言うのですが、実は私はあちらのご両親がうらやましいです。
義両親に頼れないいまとなっては、娘夫婦が頼って来るのはきっと私。娘のお腹が大きくなるにつれて、「またイチから子育てか…」という思いが募ってしまうのです。
自分が子育てをしていたころのようにもう若くはありません。娘が仕事に復帰したら、お迎えは誰が? 小学校に入ったら夏休みはどうするの? 急な病気につき添ったり、病院に連れていくのは?
子育てを経験しているからこそ、「大変なこと」が次々と目に浮かぶのでしょうね。娘が生まれたときの感動だって覚えていますし、孫はとてもかわいいと思います。でもだからこそ、子育ての大変さもフラッシュバックし、私を憂鬱にさせるのです。
■辛すぎた「ワンオペ育児」が蘇ってくる(博美さん/58歳/事務員)
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いまでいう「ワンオペ育児」で、年子3人を育てました。正直なところ3人目が3歳になるあたりまで、そのときの生活や育児の記憶があまりありません。次から次へと流れ作業のように、日々をこなしていたと思います。
年子ということもあり、年頃になると3人の子どもたちは一気に家を出て行きました。近所の人からは「子どもがいなくなるとさみしいわよ」と言われていましたが、それ以上に私が感じたのは大いなる「解放感」でした!
毎週5人分の布団を干さなくてもいいし、洗濯ものだってごくわずか。夫と2人分の食材だと買い物も楽だし、食費も激減しました。そのぶん買い物帰りに、ちょっとおしゃれなカフェでお茶をしたりとゆっくりできます。
そんな生活に満足していたからこそ、娘に「孫ができるよ」と言われた瞬間、あのころの大変さを思い出してしまって。孫は絶対にかわいいだろうし、娘を助けてあげたいと思ういっぽう「また育児か…」と憂鬱になってしまいます…ダメなおばあちゃんですよね。
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優しくて責任感が強い人ほど、自分のネガティブな気持ちに罪悪感を感じてしまう傾向があるようです。実の母娘だとついつい頼ってしまいがちですが、自分の老後を過ごしているお母さんにも配慮するよう、気をつけたいものですね。
ライター:矢島 みさえ
心理カウンセラーとして勤務しながら、ライターとしても活動中。オタクな母と同じ道を歩まぬよう、2人の娘には、王道のアニメしか見せていなかったにも関わらず、長女は創作活動、次女はマイナー路線への道を歩み始めていることに、少し頭を悩ませています。