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なぜ学校からのお手紙は電子化されないのか?家庭と教育現場のデジタル・デバイド

子育て

2020.01.05

2020.07.19

学校からのお手紙、みなさんどうやって管理していますか?

 

多くの学校では紙で配られるので、重要なお知らせがどれだったか分からなくなったり、紛失したりという経験をしたことがある方も多いのでは。

 

どうして未だに、配布物の電子化が進まないのでしょうか。

そして、電子機器と子どもたちの距離感について、私たちはどう考えればいいのでしょうか。

 

教育と情報化に詳しい、国際大学GLOCOM主幹研究員・准教授の豊福晋平先生にお話を伺いました!

世界に遅れる日本の教育現場

豊福晋平先生

 

──現在、学校からのお知らせはほとんどの場合紙で配られており、それに対して不満を持つ親も少なくありません。日本のこの現状は世界と比べてどうなのでしょうか?

 

豊福先生

経済協力開発機構(OECD)による生徒の学習到達度調査(PISA2018の結果が201912月に発表され、日本は読解力の順位が下がったなどとして話題になりました。PISAには学習環境の調査も含まれており、施設の状況やITをどのくらい使用しているかなどをまとめています。日本はICTに関するすべての項目で平均を下回っており、他国と比べればかなり遅れています。

 

配布物はもちろん、授業においてもパソコンやタブレット、インターネットを利用したICT教育が効果的に行われていない状況です。

 

──海外では、保護者とのやり取りもネットを介して行われることが多いのでしょうか?

 

豊福先生

例えばデンマークでは、まだインターネットが一般家庭に普及する前、1990年代初頭から電子会議室による連絡システムが使われてきました。

 

私が2011年に現地を訪れ、学校の情報担当の先生に聞いたとき、すでに保護者とのやり取りは95%が電子化されていると話していました。

 

──2011年で95%ですか。日本とは比べ物にならないくらい進んでいますね。

 

豊福先生

そうなんです。お知らせや入試の願書提出などもそうですし、子どもたちが今取り組んでいることや学習の成果など、最新の情報を逐一オンラインで保護者に伝えています。

 

学校のオンライン・システムでは、保護者がメッセージを開いたかどうかを確認でき、未読が貯まっている人には電話連絡する、と言っていましたね。

 

──なぜそんなにも電子化が進んでいるのでしょうか。

 

豊福先生

例えば北欧では、教育分野だけでなくオンライン・バンキングや徴税情報、健康保険など、政府が社会全体の電子化を後押ししてきました。人口が少ないため、どのように生産性を上げるかと考えた時にIT化は必須だった、ということのようです。

 

──日本で電子化が進まないのはなぜですか?

 

豊福先生

まず、幼稚園や保育園では手作業を大切にする文化が強く、ITに対しては拒否感が強いです。小中学校・高校でも、携帯電話(スマートフォン)の持ち込みや校内での使用を規制する文部科学省通知が2009年に出されています。

 

SNS上のトラブルなどが注目される中で「学校のなかでSNSを扱うのは不適切なもの」と否定的に考える先生が多く、便利になるとは思わないようです。こうした背景があって、配布物も紙のまま、という状態です。

 

──なるほどパソコンで作ったお便りを印刷して配るのは先生にとって手間もかかるし、親も管理しきれないこともあるなどデメリットも大きいと感じます。

 

豊福先生

自動印刷機の普及もあって学校からのお手紙は増えていますし、本当に大切なお知らせが見落とされてしまうというのは大変な問題です。そこで学校がどう対策したかというと、「学年だよりは水色の紙」など、お知らせの内容によって紙の色を変えるのだ、と聞いて唖然としました。

 

今、持続可能な開発目標(SDGs)が大きく取り上げられている中で、紙資源の利用は一向に減らない、かなり矛盾していると思います。

 

──うーん、なかなかアナログな方法ですね

 

豊福先生

日本の教育機関と家庭には深刻な「デジタル・デバイド(情報格差)」が存在します。

 

保育園や幼稚園はほとんどパソコンが導入されていないので約30年、小中学校・高校ではパソコンはあるものの、インターネットに接続して使う機会は多くないので、約20年のギャップがあるんです。

 

飛行機の事故が怖いからといって人力車を使うか?

豊福晋平先生

 

──道のりが遠いなと感じてしまいますが、今後日本で電子化が進むとすればどういう道筋で進んでいくのでしょうか?

 

豊福先生

教員の働き方改革の中で、教えること以外の仕事を減らそうという動きがありますので、効率化する中で進む可能性はありますね。

 

また、文部科学省は2019年、全国の小中学校でパソコンやタブレット型端末を児童生徒が1台ずつ使えるようにする構想を発表しました。2023年度までの実現を目指していますので、子どもたちが11台パソコンを持ってクラウドのアカウントを取得する前提であれば、それを保護者にも広げる方法が自然です。

 

──文科省に取材したところ、配布物の電子化については各学校や教育委員会に任せているとのことでした。ただ、セキュリティなど新たな問題が出てくることを考えて、二の足を踏んでしまう学校も多いのではないでしょうか。

 

豊福先生

セキュリティが心配、電子化したことで問題が起こる、という話は必ず出ますが、リスクがどの程度あるのか冷静に判断することが大切です。企業など、学校以外では多くのことをすでに電子化していますよね。

 

飛行機や新幹線で事故が起きる可能性もゼロではない。だからといって、リスクを恐れて人力車を使いますか?という話なんです。一度電子化すれば利便性が高いことに納得するわけで、紙の時代には戻れないと思いますよ。

 

──確かに、利便性は比べ物になりませんよね。

 

豊福先生

一度電子化すれば、多くのお知らせが来て埋もれてしまっても、キーワードですぐに探せますし、保護者間で簡単にデータ共有でき、外出先からでも確認できます。最新の情報も得やすいですよね。しかも省資源です。

 

──逆に、電子化したことで起こりうる問題はありますか?

 

豊福先生

全ての人がITリテラシーを備えている訳ではないので、利用者のリテラシーのレベルを上げないと、情報漏洩などの問題が起こるリスクはあります。便利な反面、必要な知識スキルをきちんと身に付けることが重要ですね。

 

また、どんなにパソコンやスマートフォンが普及しても、自分は使わない、という人もいますから、そうした相手には紙媒体で渡す、などのフォローも必要です。

 

──学校が配布物を電子化するまで、親ができる工夫はあるでしょうか。

 

豊福先生

書類をスマホで撮影すれば、自動でファイリングと文字認識をするアプリもありますので、そういったもので対策するのが良いかと思います。

 

ネットをどう使うか、それぞれに合うやり方を考えて

豊福晋平先生

 

──子どもたちとパソコンやスマートフォンなどの電子機器との距離感に悩む親も多いです。何かアドバイスはありますか?

 

豊福先生

先程も触れたように、学校と家庭との間では20-30年のデジタル・デバイドがあります。

 

学校の生活指導の先生にとってみれば、ITを使えば勉強や睡眠の時間が削られるという認識のもと、使うことに罪悪感を持たせる、12時間以上は使わないと指導する、といった教育をしがちです。

 

でも、これから11台パソコンを持つようになれば、そんなことは続けられません。子どもが動画を見たい、インターネットをやりたい、と思うのは「外の世界を知りたい」という積極的な動機づけがあるからです。それをすべて否定するのは、子どもの関心を奪うことになってしまいます。

 

──確かに、親は便利に使っているのに、子どもが動画を見たりSNSをやったりすると否定してしまいがちです。

 

豊福先生

今アメリカでは、「Digital Citizenship」として、情報技術を利用する上での行動規範を子どもたちに教えています。

 

対象年齢によって内容は違いますが、「インターネットを楽しむことと、友だちと遊んだり外に出かけたりすることなどの『つり合い』が大事」と呼びかけたり、自分の情報を公開しすぎることの怖さを伝えたりしています。

 

一方で、インターネットを使ってアクションを起こすことで社会にムーブメントを起こすこともできる、エンターテインメントだけではないインターネットの積極的な可能性も伝えているんです。

 

──確かに、インターネットの良い面もたくさんありますよね。

 

豊福先生

「スマホは2時間まで」「勉強の邪魔」と頭ごなしに決めつけず、自分でどう使うかをきちんと考えよう、というのがDigital Citizenshipの考え方です。例えば、メディアバランスの最適値はそれぞれみんな違うという前提ですね。

 

──それを親子で一緒に考えてみるのも良さそうです。

 

豊福先生

YouTubeなどの動画サイトでは、子どもたちは画面上の刺激に受け身で反応するだけで、長時間見続けてしまう懸念があります。でも、動画の内容について、例えばお母さんが子どもに質問して会話を重ねるだけで、子どもの理解が深まったり、言語化する力が伸びたりという効果があります。

 

スマホなどを通じて個人の扱う情報量が飛躍的に増えた現代、それらをどう使うのか。刺激に受け身で反応するのではなく、進んで自ら対処できる工夫は何か、少し視点を変えて、親子で一緒に考えてみると良いでしょう。

 

関連記事:「学校のプリントはメルマガにしたら?」保護者の声「皆が苦労する」

 

Profile 豊福晋平先生

豊福晋平先生

1967年北海道生まれ。横浜国立大学大学院教育学研究科修了、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程中退。現職は国際大学GLOCOM主幹研究員・准教授。専門は学校教育心理学・教育工学・学校経営。長年にわたり教育と情報化のテーマに取り組む。

 

取材・文・写真/小西和香

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