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「冷凍食品は愛情不足」批判の根源はいつ生まれたのか!?

子育て

2020.03.21

冷凍食品の活用は家事の手抜きではなく「手間抜き」だと謳う、冷凍食品ジャーナリストの山本純子さんは、「冷凍食品は愛情不足、栄養がない、まずい」という意見について首をひねります。

 

美味しくて安全、種類も豊富な冷凍食品ですが、なぜネガティブな意見がつきまとうのでしょうか。

 

PROFILE 山本純子さん

冷凍食品ジャーナリスト。冷凍食品専門紙の記者・編集長・主幹として34年間務める。2015年10月に独立し、WEBメディア「冷凍食品エフエフプレス」を立ち上げ、冷凍食品の情報を届けている。

 

冷凍食品を定義する4つのメリット

 

──時短調理を可能にしてくれる冷凍食品ですが、家事を楽にしてくれる以外にもメリットはあるのでしょうか。「冷凍食品で栄養がきちんと摂れるのかが不安」という声もあるようですが

 

山本さん:

日本冷凍食品協会が示している冷凍食品の条件は4つあります。

 

1.前処理している
2.急速凍結している
3.適切に包装している
4.品温を−18℃以下で保管している

 

この4つの条件に生鮮食品にはない魅力が詰まっているんです。

 

  • 家庭での負担を軽減する「前処理加工」

普段野菜などの材料を買ってきたら、使う前に洗って、切って、根っこや皮などを捨てて、ものによってはアク抜きなどの下処理をしてから調理しますよね。

 

冷凍食品はこれらの工程を、衛生状態が常に良好に保たれた製造工場で行い、家庭での負担を軽減してくれているんです。またほとんどの工場で、不要部分などの生ゴミは堆肥にするなど、リサイクル処理されています。冷凍食品の使用は、環境を意識したエコ活動にも繋がっているんです。

 

  • 「急速凍結」することで美味しさと栄養価をキープ

家庭の冷凍庫で行うホームフリージングは「緩慢凍結」といって、数時間〜10時間くらいかけて、食品はゆっくり凍っていきます。対して工場では凍結専用の機器により、10分〜30分程度で素早く凍らせることができます。この「急速凍結」のメリットは「鮮度を保ち、素材の細胞組織を壊さない」ということ。

 

家庭の冷凍室での緩やかな凍結は、食品内の氷結晶を大きく成長させます。この大きな結晶は、周りの組織を壊し、栄養や風味を損なう原因に。

 

急速凍結の場合は、食品内の水分を細かい氷結晶にして凍結することができるため、組織を壊しません。これを上手に解凍することで、味も栄養も冷凍前の状態とほぼ変わることなく食べることができるんです。

 

──スーパーの冷凍コーナーで見かける、冷凍野菜や冷凍果物は、生の状態から栄養も味も落ちていないということですね。

 

山本さん:

そうですね。凍結することによって品質が低下する、ということはほとんどないと思っていいでしょう。冷凍野菜と生野菜を並べた時、「生野菜の方が栄養価も高く、美味しいに決まっている」と生野菜を手に取る人も多いでしょう。でも冷凍野菜の加工時期や加工の過程を知れば、ちょっと見方が変わるかもしれません。

 

例えば「冷凍ほうれんそう」を例に挙げてみます。冬に旬を迎えるほうれんそうは、夏場に収穫したものと冬場に収穫したものとで栄養に差があるのをご存知でしょうか。実は夏場に収穫されたほうれんそうのビタミンC含有量は、旬の時季の1/3

 

冷凍ほうれんそうは年間通して最も味が良く、栄養価が高い冬に大量に加工し、保管します。冷凍食品は−18℃以下の環境では約1年間栄養価もほぼ落ちず品質を保つことができるため、栄養素の観点で見ると、夏場の生のほうれんそうよりも、冷凍ほうれんそうの方が高い栄養を含んでいるんです。もちろん共に調理して食べられる状態での比較です。

 

 

──なるほど。冷凍野菜が生鮮品と比べて価格が安定しているのも、旬の時季に大量に生産するからなんですね。冷凍食品は長期保存が可能にも関わらず、保存料不使用というのは本当ですか?

 

山本さん:

冷凍食品は保存料を使わなくてよい食品です。なぜなら、−18℃以下は細菌が活動できない温度帯だから。

 

  • −18℃で保管すること」が、保存料不使用の鍵

細菌が繁殖できないということは、つまり傷まない、腐らない。ということです。腐らないので保存料を使う必要がなくなります。

 

冷凍食品の「原材料」の欄を見てみるとわかると思います。離乳食のおかゆも生協が冷凍食品で販売していますが、原材料は「お米と水」のみ。衛生的な環境で、保存料不使用で作られるため、赤ちゃんも安心。

 

ただ、家庭の冷凍室は開閉が頻繁なため、庫内での温度変化も起きやすいです。購入後は1カ月くらいで使いきることをお勧めします。

 

  • 商品の情報と調理法が細かく記載された「包装」

冷凍食品の包装は、衛生的に流通させることが目的の一つですが、製造側から消費者への「情報を伝える場」でもあるんです。

 

パッケージには「製造場所」「原材料」「調理方法」、さらには心配事があった際のお客様相談室の電話番号などまで記載されています。解凍手順も「ラップをかけて500Wの電子レンジで40秒」など、「最も美味しく食べられる方法と手順」を細かく記してあります。「冷凍食品は美味しくない」という人の中には、この手順を正しく守っていない人がたくさんいるかもしれません。

 

料理ができる人ほど「目分量」を使ってしまうんです。例えば冷凍シュウマイを解凍するときに、「ラップをかけて」と書いてあるにも関わらず、ラップをせずにレンジにかけてしまい、皮の部分がカピカピの乾燥状態になってしまったり、自然解凍でも食べられるように加熱調理された冷凍ブロッコリーを、生鮮と同じくらい茹でるのでクタクタになってしまったり。

 

冷凍のむき海老で失敗している人も大勢います。このようなシーフード商品には、素材表面に薄い氷の膜がついていますが、これは素材を乾燥から守り、空気による酸化を防ぐ「グレーズ(氷衣)」という処理なんです。「調理前にグレーズを流水に当てるなどして解凍し、水けをきってから使ってください」と書いてあればいいんですけど。氷の膜ごとフライパンに入れてしまい、べちゃべちゃの仕上がりになってしまったという失敗談をよく耳にします。

 

2020年は冷凍食品事業が始まって100年目。
日本で最初の冷凍食品とは?


 

──目分量ではなく、手順を守ることが美味しく食べるコツということですね。現在は自然解凍で食べられる冷凍野菜やおかずが増え、私たちのニーズに合わせてより手軽に扱えるような技術の進歩も感じられます。そもそもの日本での冷凍食品事業の始まりはいつ頃なのでしょうか。

 

山本さん:

日本の冷凍食品の歴史は、今からちょうど100年前の1920年(大正9年)から。北海道森町に、アメリカ人冷凍技師の指導の下、食品を凍結できる冷凍庫ができました。近海で獲れた魚をそのまま凍結した冷凍魚をつくったのが始まりです。

 

その後、1923年に林兼商店(現マルハニチロ)がデンマークの技術で、1930年に戸畑冷蔵(現日本水産)がアメリカの技術で食品凍結事業を開始しています。

 

元々は冷凍食品というよりは「冷凍魚」から始まった業界。初めて開発された市販用冷凍食品は、1930年の「イチゴシャーベー」という冷凍イチゴ加工品でした。販売したのは大阪・梅田にある百貨店のアイスクリーム売場。の後大戦で業界に大きな発展はなく、「冷凍食品売場」の登場は、戦後、水産企業が本格的な事業として取り組むようになってからでした。

 

──冷凍食品業界がスタートした頃から、消費者からの冷凍食品に対するネガティブな感想は出ていたのでしょうか。

 

山本さん:

デパートで冷凍魚を売り出し始めた昭和20年代。この頃に台所に立っていた人は、「冷凍物は新鮮でない、美味しくない」というイメージを持っている人が多いようです。中には「冷凍魚は臭い」なんて意見も。

 

「冷凍物はよくない」というイメージが定着した理由とは?


──「冷凍魚が臭い」というイメージがついてしまった背景はなんでしょう?

 

山本さん:

戦後まもなくの話ですが、北海道で魚がたくさん獲れ、出荷してもなお余ってしまったことがあったそうです。それでしばらく生のままの状態で置いておいたら、臭い匂いが出てきてしまったとか。慌てて冷凍庫に移動させたところ、匂いが消えたそう。冷凍庫に入れることで、一時的に匂いが消えた冷凍魚が出荷されてしまい、家庭に届いて解凍した時に再び匂いが発生してしまった

 

このエピソードが「冷凍魚は臭い」といわれることになったきっかけだと思っています。

 

私が子どもの頃も近所の魚屋さんが「この魚は冷凍じゃないよ!」とアピールしながら売っていたり、母が「今日は冷凍物じゃないから美味しいよ」と食卓に並べたりしていました。

 

残念ながら、当時の冷凍魚のイメージが、今も家庭内で伝承されているようです。おじいちゃんおばあちゃん世代から「冷凍物、特に冷凍魚は良くない」と言われ、それを聞いていた子や孫が「冷凍はまずい、臭い、新鮮でない」とインプットされ信じている。ずっと昔からの口コミを今もなお引きずってしまっているんでしょう。

 

──当時の魚屋さんが、冷凍食品の普及によって、自分の店の売り上げが落ちることを気にして「うちのは冷凍じゃないよ」と、あえて強く「生鮮」をアピールしたり、センシティブな面もあったのかもしれませんね。

 

山本さん:

そんな経緯があって、「冷凍食品の使用」自体が「良くないこと」とされた。それが巡り巡って、「子どものお弁当に使うのは愛情不足だ」という意見につながっているのかもしれません。

 

でも、どういうものが「愛情が足りている」のか、どこまでが「手作り」と認められるのかは、人それぞれです。冷凍食品入りのお弁当が「手作りじゃない」というのなら、ケチャップやマヨネーズはどうだとか、突き詰めていくと論争になってしまいますからね(笑)。

私は娘のお弁当に冷凍食品を使っていましたが、愛情はたっぷり込めたつもりです。

 

確かに冷凍食品は万能ではありません。電子レンジがないと解凍できないものも多いです。葉物野菜やからつき卵、根菜など、素材によっては、解凍した時に食感が損なわれたり、冷凍前の状態に戻らないものもあります。

 

でも手間を省いて品質の確かなものを家族に与えるのに、なぜ躊躇したり、後ろめたく思ったりするのかは疑問です。鮮度のよいもの、品質の良いものが安心して食べられるということをもっと知ってほしい。もちろん冷凍食品「だけ」でも十分満足できる夕食は可能ですが、食卓に一品、冷凍食品を活用できたら、忙しい夕食の準備もぐっと楽になるはずです。

 

──山本さんのお話を聞いて、これまで冷凍食品の表面上のメリットしか見ていなかったことを実感しました。自分の中の冷凍食品に対するイメージが変わった気がします。周りの声に振り回されず、自ら商品知識を深めることも私たちには必要ですね。

 

取材・文/佐藤有香 撮影/土田凌 

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