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子どもの睡眠不足の怖さ「心の発達・学力・肥満」に影響

子どもの健康

2021.08.14

前回の『「寝る子は育つ」は本当?子どもの脳をつくる睡眠の働き』の記事では、子どもの脳をつくる眠りの働きについて、太田総合病院記念研究所太田睡眠科学センター所長であり、日本睡眠学会理事を務める千葉伸太郎先生に解説してもらいました。

 

今回のテーマは、睡眠不足が子どもに与えるさまざまな影響について。ぐっすり眠れていないことで起こりうるリスクを教えてもらいます。

世界一眠れていない日本の子どもたち

2010年に17の国と地域で調査された『3歳以下の子どもの睡眠時間の国際比較』によると、日本の乳幼児の睡眠時間はもっとも短い11時間40分ほどであることがわかりました。

 

いちばん睡眠時間が確保できているニュージーランドと比べると、1.5時間以上の開きがあります。

 

「アメリカの“National Sleep Foundation”が2015年に発表した推奨睡眠時間を見ても、1〜2歳の推奨時間は11〜14時間、3〜5歳は10〜13時間、6〜13歳は9〜11時間の睡眠が求められています。

 

1990年代の各国のデータを整理比較してみると、11〜16歳の子どもについても、日本人の睡眠時間は最短レベル。

 

中学3年生の睡眠時間は、7時間をきっており、日本の子どもたちが十分に眠れていないという問題点が浮き彫りになりました」

睡眠は心の発達や学力、肥満に大きく関わっている

睡眠不足は、育ち盛りの子どもの成長にも大きく影響しています。

睡眠不足によって心の安定を欠きやすい子に

「よく眠れていないと、些細なことでキレやすくなったり、涙もろくなってしまいます。

 

睡眠不足の人が、十分に睡眠をとっている人よりも、よりネガティブな感情が持続しやすいことを証明した、ある実験があります。

 

この実験では、睡眠時間4時間の人たちと、8時間の人たちに、怖れや不安を感じている表情の画像を見せました。

 

画像を見せたときの脳の扁桃体の変化の測定では、睡眠不足の人の方が扁桃体の戻りが遅く、不安や困惑といった感情が尾を引きやすいということが明らかになりました。

慢性的に睡眠不足が続くと、ネガティブな感情が持続し、心の安定を欠きやすい子になってしまうのです」

睡眠不足は運動能力の低下、肥満を招く

それだけではありません。子どもの睡眠不足は運動能力の低下や、肥満にも影響します。

 

「NHKによる『国民生活時間調査』の睡眠時間と、文部科学省による体力調査のデータを掛け合わせてみると、睡眠時間が短いほど体力合計点が低いという結果が出ています。

 

また、睡眠不足は、代謝が悪くなるため、肥満のリスクも増えます。

 

健康な若者に10日間の睡眠制限をする実験を行ったところ、代謝機能が低下、糖尿病、高脂血症、高血圧のリスクが高まり、メタボリックシンドロームのような症状が起こりました。

 

さらに、睡眠不足は、食欲増進ホルモン“グレリン”の分泌が増やし、食欲を抑えるホルモン“レプチン”を減少させます。ホルモンバランスの乱れによって、食欲をコントロールしにくくなると、肥満になりやすいこともわかっています」

幼児期の睡眠の質が数年後の成績に影響!?

睡眠は学力にも大きく関係しています。国内外の複数の調査によると、早く寝て、しっかり睡眠をとっている子どもの方が成績がよいという研究データもあります。

 

「アメリカで行われた調査ですが、中学生(13〜14歳)の成績と、幼少時(2〜6歳)にいびきをかいていたかの相関性を調べたところ、成績下位25%のうち12.9%が、いびき症の子ども。

 

小さい頃にひどいいびきをかいていた子どもは、成績があまりかんばしくないということが考えられます。

 

さらに、いびきがあった成績下位者のうち、治療を行った子どもは、成績の向上がみられましたが、治療を行わなかった子どもは成績に変化がなかった。

 

この結果から、睡眠の質が知能や認知機能に影響し始めるのは幼児期からであること、数年後の学業成績にも影響を及ぼすということがいえるでしょう」

睡眠に対する意識改革で、学力向上につながったケース

千葉先生は、2013年から奈良県の西大和学園で睡眠改善プログラムを実施。

 

睡眠の役割と重要性を理解し、睡眠に対する意識を持ってもらうことを狙いにしたこのセミナーを受けた学生たちは、半年後のアンケートで睡眠の質が改善。学力の向上が見られたそうです。

「西大和学園の場合は、推奨されている睡眠時間を確保したわけではありません。私が行ったのは、睡眠に関する正しい情報の提供です。

 

その後、どのように生活を変え、自分の睡眠に向き合っていくかは、学生自身で睡眠日誌をつけるなどして、決めてもらいました。

 

すると、睡眠に関する正しい知識を参考に、夜更かしをしないように気をつけたり、夜コーヒーを飲むことをやめたりと、規則正しい生活を目指すようになった。

 

学生たちの睡眠に対するセルフコントロール力が高まることで、生徒が体感する睡眠の質がよくなり、結果的に学力向上につながったのです」

成長期の眠りは子どもの未来につながる

「睡眠は、育ち盛りの子どもの脳や体の発育にとても重要な役割を果たしています。

 

ただ、大人になるまでの成長の時間は決まっているため、成長の遅れが余りにも大きくなってしまうと、間に合わなくなってしまう可能性も少なくありません。

 

特に、幼い子どもたちは、よく眠れていない辛さを自覚して訴えるようなことができないでしょう。子どもがよく眠れているかどうかは、大人以上にわかりにくいという状況にも注意が必要です。

 

また、よい睡眠というのは、ただ睡眠時間を確保すればいいというものでもありません。睡眠の質には、時間だけでなく、呼吸も深く関わっているということもぜひ知って欲しいと思います」

 

次回は、質の高い睡眠に必要な「呼吸」について詳しく聞いていきます。

 

PROFILE 千葉伸太郎

千葉伸太郎先生プロフィール写真

医学博士 太田総合病院記念研究所・太田睡眠科学センター所長。慈恵医大准教授。日本睡眠学会理事(副理事長)。東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科から、スタンフォード大学医学部睡眠&生体リズム研究所客員講師を経て、長年、睡眠の研究に携わる。著書に『子どもの脳をつくる最高の睡眠 勉強、運動のできる子は、鼻呼吸をしている』(PHP研究所)がある。

取材・文/仲宗根奈緒美

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